ケイちゃんは鼻歌を歌いながらなにやら絵を描いている。

「ケイちゃん、何描いてんの?」

聞けば彼女は振り向いて、100点満点の笑顔を向けた。

「ロイド」

お世辞でも上手だとは言えない絵だが、紙の端から端まで愛情を感じる。赤い服にツンツンの茶色い髪の毛。ケイちゃんなりにイケメンに描いたんだろうが、まあ別にイケメンではない。しかしその言葉は飲み込んでおく。

「へぇ、ちゃんと特徴つかんでるな〜」
「でしょー?」

当たり障りのない言い方をしただけなのに、ケイちゃんは嬉しそうだ。

「ロイドくんにあげるの?それ」
「まさか、そんな恥ずかしいことしないよ」

さすがにそれはしないと答えるあたり、17歳の女の子らしさを感じる。子どもっぽいところも多いが、やはり年頃らしい。

「まあコレットにならあげてもいいけど」
「あぁ、コレットちゃんはそういうの喜びそうだもんなぁ」
「だよね、でもコレットにはあげない」
「なんで?」
「だってロイドだもん」

ケイちゃんはまた100点満点の笑顔で言った。あぁ、その笑顔が俺のためにだけ向けられているなら、どれほど良かっただろう。

「ケイちゃんはよく笑うな、ほんと」
「笑顔は幸せを呼ぶんだよ」
「そうだな、ケイちゃん見てると幸せになれる気がするわ、俺さま」
「でっしょー?」

俺の言葉に深い意味など感じずに、ケイちゃんは笑う。彼女の瞳がきらきらと綺麗なのはきっと、ロイドくんがいるからだろう。端から見ればケイちゃんもロイドくんもお互い想いあってて両思いなのは一目瞭然だというのに、二人してそれに気付いちゃいない。ロイドくんがうかうかしてたら、俺がケイちゃんをさらってしまいたいくらいだ。

「可愛いなあケイちゃん」
「ありがと、ゼロスは今日もイケメンだよ」
「じゃあデートしようぜ、美男美女同士で」
「やだ、ロイド以外とはしない」

迷うことなく笑顔でそう言い切ってしまう、そんなところが好きだ。そしてそんなところが、嫌いだ。

「いいじゃねぇのよーデートくらい」
「ダメなの、デートはロイドとって決めてるの」
「ちぇ」

ケイちゃんじゃなかったらもっとぐいぐいといって無理矢理デートでもしているところだが、ケイちゃんにそんな強引な手は使いたくない。出来れば彼女が望んで、俺を受け入れてくれればいいと思う。そう思ってしまうのはきっと、俺がそれだけ想ってしまっているからだ。

「じゃ、ケイちゃんがロイドくんにふられたら俺さまがデートしてやるよ、慰めるために」
「ゼロスは意地悪だなあ」

ケイちゃんは笑う。大丈夫、君ならきっと、幸せをつかめるから。つまり俺が君とデートすることなんて、この先きっとずっとないわけだ。

「ケイー!」

そしてケイちゃんと喋っていたら、今一番聞きたくなかったやつの声。ケイちゃんの笑顔があっさりと100点満点を越えてしまう。

「ロイドだ!」

ケイちゃんが嬉しそうに声をあげる。俺の方を向くと、ケイちゃんは言った。

「私、行ってくるね!」
「おう」

そして俺になど目もくれずに、ケイちゃんは声の方へと走っていった。残されたのは、彼女が描いた、お世辞にも上手だとは言えないあいつの絵。

「…ロイドくん、恨むぜ」

俺は彼女が描いたあいつの絵を、破って捨てた。



君とあいつとはみ出し者
(はみ出しているのは、俺だ)



2011.10.13


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