ガリッ!

「いったー!!!」

朝の宿屋に、ケイの声が響いた。寝ぼけ眼で朝食をとっていたケイは、ふわふわとした意識のままでご飯を食べており、その際にガリッ!と口の中を豪快に噛んでしまったのだ。あーあ、と他のパーティーたちはあきれ返る。人一倍朝の弱いケイは、しばらく完全に目を覚まさないので、朝から魔物と遭遇しようものなら大変なことになるのだ。これでも完全に目を覚まさないあたりがケイらしいといえばケイしいのだが。

「ううう…てぃっひゅ…」

隣に座っていたロイドにティッシュを求めると、ロイドはテーブルに置かれてあったティッシュ箱に手を伸ばす。
それを何枚か取ると、ケイに手渡してやった。

ケイはティッシュを受け取ると、少しだけ水に濡らしたそれを、口の中に入れて傷口に当てる。少し抑えてからそのティッシュを確認すると、それは真っ赤に染まっていた。

「あららケイちゃん。結構がっつり噛んでるじゃねーの」

みんなでひとつのテーブルの囲んでいるので、ケイの隣にはゼロスも座っていた。
ゼロスがケイのティッシュを見てそう言うと、ケイはすっかりテンションが下がった様子で答えた。

「朝から最悪…」
「ま、しゃーねーな。口ゆすいでくれば〜?」
「そーする…」

ケイは席を立つと、そのままのろのろと立ち上がり、覚束ない足取りで口をゆすぎに向かった。口をゆすぎ、冷たい水で顔を洗う。少しだけ目が覚めると、ケイは溜め息をついた。そしてもう一度ティッシュを傷口に押さえつける。何度かそれを繰り返していると、そこへ赤い髪をゆらゆらとさせながらゼロスがやってきた。

「ようケイちゃん、どんな感じ?」
「だいぶましだよ」

ケイはゼロスに笑顔を見せる。寝ぼけ眼のままティッシュを口に詰め込んでいるケイは、まるで子どもだ。

「ちょっと見せてみろよ」
「ん」

ゼロスに言われて、ケイは素直にティッシュを離した。小柄なケイは目一杯ゼロスを見上げる。ゼロスはそんなケイイの顔を軽く持ち上げて、唇を少しめくる。そこにはしっかりと大きな傷が入っているが、もう止血はされているようだった。

「血は止まってるな、まだ痛むか?」
「んーん、もうだいじょうぶ」

ゼロスに唇を引っ張られている状態のケイは、あまり上手くしゃべれていない。そんなケイがなんだかおかしくて、ゼロスは笑った。ケイは少しむっとしてゼロスを睨むが、ゼロスからしてみれば別に怖くもなんともない。むしろ上目遣いが可愛いくらいなものである。

「これそのうち大きい口内炎になるぜ〜?」
「うえ、絶対やだそれ」
「消毒しといてやろうか?」
「え、消毒液とか持ってんの?貸して貸して!」

ケイの表情がぱっと明るくなる。ゼロスはにっこりと笑うと、突然ケイの唇を塞いだ。それは本当に一瞬のことで、まだ完全に眠りから覚めていないケイは状況に頭が追いついていなかった。

ゼロスが唇を離す際、ケイが噛んだその傷をぺろりと舐め取ると、ケイはびくっと体を震わせた。さすがのケイも、もう完全にお目覚めのようである。

「ほい、消毒完了」
「っ、ばか!朝からなにすんのよ!変態!」
「変態はないでしょーよ、折角俺さまが消毒してやったのに」
「うっさい!ばか!あほ!」
「顔赤くしてそんなこと言われてもなあ」
「〜〜ゼロスのすけべ!」

顔を赤く染め上げて逃げるように走り去ったケイをみて、ゼロスはちょっとやりすぎたかな、と笑った。



消毒液
(いつでも消毒してやるからな〜)
(…いりません)
(でもちょっとそうして欲しいと願うのは、仕方のないことだったりする)



自分が口噛んだときにおもいついた。

2011.10.11

back
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -