「ね、ゼロス?」
「ん〜?何かなケイちゃん」
「夜空を翔ける流れ星を今、見つけられたら、何を祈る?」
「へ?」

歌うようにそう尋ねたケイは、満点の星空の下で笑っていた。ゼロスはうーんと、少し悩むと、おどけたように笑って答えた。

「世界中の可愛い女の子に囲まれたハーレムが出来ますように、かな?」
「ゼロスらしいね」

ケイは笑っているばかりだ。そんなケイに、ゼロスは尋ね返した。

「じゃあ、ケイちゃんは?」
「ん?」
「夜空を翔ける流れ星を今、見つけられたら、何を祈る?」
「そうだなあ」

ケイは夜空を見上げた。満点の星空はきらきらと輝いている。黒く塗りつぶした空に散りばめられたあの星は、今日も綺麗だ。

「みんなが振り返らずに歩けますように、かな」

夜空を見上げるケイは、ゼロスの方を見向きはせずにそう答えた。ゼロスはケイを見つめて、あぁ、と納得する。涙をこらえている彼女は、それを流さぬように、夜空を見上げているのだ。決して夜空に見とれていたわけでも、何でもない。

「…涙をこらえて、ケイちゃんは見送るわけね」
「…」
「…いいのか?無理に俺さまに付き合わなくても、ケイちゃんはロイドくんたちと一緒にいけばいいんだぜ?」
「ゼロスとだから、大丈夫」
「そっか」

ゼロスはもう、何も言わなかった。ミトスによって重症を負ったアルテスタだったが、何とか峠を越え一命を取り留めた。明日はきっと、最後の決戦になる。

プレセアとリーガル、そしてリフィルが、フラノールの医者と一緒にアルテスタの様子を見ている中、ケイとゼロスは外で見張り番だ。これが二人で過ごす最後の夜になることも、この先みんなと一緒にいられないことも、何もかも知っている。

「裏切るのって、こんなに気持ち重くなるもんだったんだね」
「俺さまは根っからの裏切り者だからな、あんまりわかんねぇわ」
「でもゼロスは私を裏切ったこと、一度もないよ」
「…ケイちゃんは特別」
「ふふ、ありがと」

ケイは見上げていた瞳をそっと、ゼロスに移した。少しだけ濡れたその瞳は、まるで星のようにきらきらと輝いている。

「…いつだったかな、どこにいたってつながってるって、ロイドが言ってた」
「…」
「私が死んでも、繋がってられるかな?」
「…ロイドくんが俺たちを忘れない限り、きっと」
「じゃあ大丈夫だね、ロイドは絶対に私たちのこと忘れない」

確信なんてどこにもないのに、確信を持ってケイは言った。昔のゼロスならきっと、そんなもの信じられないと言っただろうけれど、今は自分自身もそう感じるから不思議なものである。これもロイドの人徳だろう、彼はいつも、そうやって真っ直ぐにみんなを導いていく。

「…実は私、ゼロスのこと好きなの」
「…そりゃ奇遇だな、俺さまもケイちゃんのこと好きだ」
「だから最後までゼロスに付き合ってやろうと思ってさ」
「俺さまは出来れば巻き込みたくなかったけどな」
「でも一人で先に旅立っちゃうのは心細いでしょ?私が側にいてあげる」
「…怖くないのか?」
「怖いよ。だけど迷いはない」

ケイの目から一筋、涙がこぼれた。ゼロスはそれをそっと拭ってやる。

「ゼロスと一緒なら、怖くても大丈夫」
「ならもう何も言わねぇよ」
「ね、ゼロス」
「うん?」
「夜空を翔ける流れ星を今、見つけられたら、何を祈る?」

もう一度、ケイは本当の答えを求めた。適わないな、とゼロスは笑う。

「その願いなら、心の中に、いつもある」
「それ、答えになってないよ」
「約束しようぜ」
「何を?」
「生まれ変わったら、もう少しマシな選択しよう、お互い」

そう言って、ゼロスはケイの手を握った。青い瞳はまっすぐに夜空を見上げている。ケイもゼロスの手を握り返すと、それにならってもう一度空を見上げた。

「…そうだね」
「俺はそれを願うわ、生まれ変わったら二人がもう少しマシな選択出来る人間になってますようにって」
「そんな先のことでいいの?」
「明日生まれ変わってるかも知れないだろ?」
「…それもそうね」
「そしてそれを約束しよう」
「…」
「生まれ変わったら、次はちゃんと、マシな選択しよう、お互いに」
「…うん」

二人で見上げた星空は、今までで一番綺麗な星空に思えた。

「…生まれ変わったらもう一度会いたいな」
「俺さまに?」
「ゼロスにも、みんなにも。そしたらもう同じ間違い繰り返さなくて済むでしょ?…祈りが届いたなら」
「…そうだな」

ケイはふと視線をゼロスに向けた。それに気付いたゼロスも、ケイに視線を合わせる。真っ直ぐに瞳がぶつかると、二人で笑いあった。

「…私の願いとゼロスの願い、届くといいな」
「届くさ、きっと」
「ゼロスがそうやって言うの、なんだか珍しいね」
「俺さまだって確信のない何かに縋りたいときだってあるのよ」
「そうなんだ、またゼロスのことひとつ知れたね」

ケイは、笑う。これが最後だというのに、これが最後だからこそ、笑う。それにつられてゼロスも、笑うのだ。

「…ねぇゼロス、流れ星、探そうか」
「…いいな、それ」
「どっちが先に祈りを届けられるか勝負だね」
「お?俺さま負けないぜぇ〜?」

二人は夜空を翔ける流れ星を、夜が明けるまで探し続けた。



Starry Heavens
(そして美しい羽を生やした二人は、彼らに笑顔で刃を向けた)

2011.10.10

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