買い物も終わり、修兵の家へ到着すると、蓮華は修兵の家用に持ってきている可愛いピンクのエプロンをさっとかけて、手際よくオムライスを作っていく。

「修ーチーズ入れる?」
「入れるー」

修兵はオムライスが出来るのを待っている間、ひたすらギターをかき鳴らしていた。

「修ー」
「んー?」
「それ新曲?」
「おー」
「次のライブですんの?」
「おー」
「また見に行くからチケットよろしくね」
「おー」

蓮華の言葉などほとんど耳に入っていないようだった。そんな態度にはすっかり慣れているようで、蓮華は修兵など気にもとめずにオムライスの準備を進めていく。慣れた手つきで材料を刻み、炒め、修兵好みに味付けをする。

しばらくすると、いい匂いが修兵のところまで届いたようで、ギターに夢中だった修兵もさすがに空腹に負けて、思わず反応してしまう。ギターを置くとそそくさとキッチンにいる蓮華の隣りに立つ。

「んまそー」
「卵は半熟?それとも良く焼く?」
「半熟」
「ん、分かった」

蓮華は半熟に焼き上げた卵をチキンライスの上に乗せ、縦に包丁を入れる。半熟卵が開いて、ふんわりとした美味しそうな卵がとろりとチキンライスを包みこむ。

「スープとサラダ用意してー」
「へいへい」

修兵は指示された通り、スープをカップによそいサラダと一緒にテーブルの上に並べていく。後からぶつぶつ言われないようにドレッシングやスプーンも用意した。

修兵が席に座ってメインディッシュをわくわくしながら待っていると、蓮華が半熟卵で包まれた美味しそうなオムライスを運んできた。

「はい、蓮華ちゃん特製の半熟チーズオムライス出来ました〜」
「さすが家政婦」
「うっさい、違うって言ってんでしょ」

蓮華は修兵の前の席に座り手を合わせた。修兵もそれに習う。

「「いっただっきまーす」」

檜佐木家の、よくあるディナータイムが始まった。

「どう?美味しい?」
「やばいうめぇ」
「良かった」
「やっぱお前のオムライスやべぇわ」
「それはどーも」
「毎日これでもいい」
「あたしは良くないの。てゆかサラダ食べなさいよサラダ」

蓮華は呆れたように言う。

「サラダいらねぇ」
「たーべーろー」
「ロックじゃねぇ」
「アホか」

蓮華はまるで軽蔑のまなざしを修兵を見る。修兵はそんなこと気にもとめずオムライスを食べ進めていた。そんなとき、修兵の携帯が激しい音を立てて鳴り響く。あまりの音の大きさに、蓮華は顔を歪めた。

「…その着信音なんとかならない?うるさい」
「ならねぇ」
「音量下げてよ」
「んなことしたらロックじゃねぇ」
「まじアホ」

修兵はディスプレイに写し出された名前を見て一息つく。そして通話ボタンを押した。

「おーどうした恋次」
『おーライブのことだけどよ、出演者が一組キャンセルになったらしくてな、俺らトリに変更した』
「まじかよ」
『こりゃ恥かけねぇぞ』
「そうだな、まあ気合い入れてやればなんとかなるだろ」
『お前らしいな』
「一護には連絡入れたのか?」
『あぁ、さっき入れた』
「そっか。じゃあとりあえず練習日増やすか」
『一応明日話し合いだな』
「そうだな。んじゃ今飯食ってるから後でかけなおすわ」

そう修兵が言った瞬間、恋次の声が豹変した。それは新しいおもちゃで遊ぶかのような、からかうような口調。

『蓮華と一緒か?』
「そうだけど」
『蓮華の手作りか?』
「それがどうした」
『何食ってんだよ』
「オムライス」
『お前また旨いもん食いやがって』
「いいだろ?」
『間違っても蓮華を食うなよ?』
「黙れよ」
『じゃあな』
「おう、お疲れ」

電話を切って修兵は溜め息をつく。

「恋ちゃん何て?」
「…今度のライブ、俺らトリになったってよ」
「うそ!?凄いじゃん!初トリだね!おめでと!」
「あーこれで絶対失敗出来ねぇ」
「なんで?別に失敗したっていいじゃん」
「俺らトリだぞ?」
「それが何さ。要は気持ちの問題でしょ。そんな弱気じゃビッグになんてなれないよ」
「もしとんでもない失敗して恥かいたらどーすんだよ」
「だいたいさあ、修たちを見に来てるお客さんは目的が修たちなわけでしょ?」
「そうだけど」
「お客側からしたら、正直何番だっていいの。失敗したっていいの。ライブってナマモノなんだから、失敗したって仕方ないよ」
「…」
「ただステージに立ってるアーティストが、いつだって全力で精一杯歌って気持ちを伝えてくれればそれでいいの。だから、あたしは期待してるよ」
「…お前いいヤツ」
「今さらー」

蓮華は笑ってそう言った。

その笑顔があんまりにも可愛くて、修兵はみるみるうちに顔が熱くなるのを必死に抑えていた。


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