学校も終わり下校時刻。
終礼を済ませた修兵は蓮華の教室へ向かった。

「蓮華ー」

修兵ガラッと扉を開くと、当然視線は修兵に集まる。いかにも悪そうな先輩が何の前触れもなくしれっとやってきたのだから当然の反応である。

修兵はというと、もうそんな視線にはなれてしまっているようで、気にとめることもなく教室を見渡した。すると可愛らしい声が修兵に届く。

「あ、修!」
「おー帰るぞ」
「うんっ、じゃあ桃ちゃんばいばい!また明日ねー!」
「うん!また明日ね蓮華ちゃん!」
「お、友達?」
「うん!あのね、一番に友達になったんだよ!」
「へぇ、良かったな」
「うん!!」

雛森桃という子とは、始業式の日からの友達だと嬉しそうに蓮華は修兵に話していた。そんな嬉しそうな蓮華が可愛かったなど、口が裂けても絶対に言わないと心に誓った修兵だった。



自転車置き場でピンクの愛車を取って、2人でのんびり進む穏やかな帰り道。口を開いたのは蓮華だった。

「修ー今日晩ご飯作りに行くけど何がいい?」
「オムライス」
「いっつもそれじゃん」
「お前のオムライス無駄にうめぇんだよ」
「無駄にって何よ、無駄にって」
「とりあえずオムライス」
「もー、仕方ないなあ。じゃあこのままスーパー寄って帰ろ」
「えー」
「文句言うなら作らないよ」
「へいへい…分かりました」

修兵は蓮華を乗せたまま、スーパーへオムライスの材料を買いに行く事になった。まるでカップルみたいだな、なんて思ってしまったことは死んでも言わないと思っていたとき、蓮華がそれをあっさりと口にする。

「でも何かこんなんしてたらカップルみたいだね」

蓮華がえへへーと笑いながらそう言った。まさか蓮華がこんなことを言い出すだなんて思っていなかった修兵は、若干パニックになり思わずこんなことを口走る。

「むしろ同棲じゃね?」

しまった。
と真剣に思った。

まずい、引かれる、どうしよう、とそんなことが頭を駆け巡っていた。あぁなんて女々しいんだろう俺は、なんて思ってひとりでドギマギしていると、思いもよらないほどにあっさりと同意の言葉が返って来た。

「あーそうだね。言われてみればそうかもー」
「……だろ?」

ごちゃごちゃした気持ちを押し殺しながらなんとかそれだけ答えると、蓮華がアハハッと声を上げて笑った。

「カギ持ってるしねーなんならこのまま一緒に住もっかー」
「え…」
「…なーんて、冗談」
「…」
「ちょっと、黙らないでよ、私がすべったみたいじゃん」
「実際ダダすべりだぞ」
「ひっどーい!」

蓮華の言葉はきっと、まだ救いを求めているのだと悟った修兵は、それ以上何も言わなかった。彼女が自分から救いを求めてこない限り、現在の詳しい内情を知らない自分からアクションを起こすことはできない。そういう約束だからだ。

すっかり黙りこけてしまったふたりは、なんとなく少し重い空気の中スーパーに向かうのだった。



そんなこんなでスーパーに到着すると、蓮華は手際良く材料を選んでかごの中に入れていく。そして切り替えるように明るく言った。

「オムライスとーあと何が食べたい?」
「スープ」
「何の?」
「何でも」
「じゃあコーンスープとミネストローネとコンソメ、どれがいい?」
「コーン」
「んー了解。他に食べたいのは?」
「適当でいい」
「じゃあサラダ作ろうか。修、栄養偏ってるだろうし」
「えー野菜嫌だ」
「文句言わないの。サラダ決定ね」
「えー」

傍から見れば、カップルと言うか小さな母親と大きな子供のようである。

買い物を済ませたふたりは、いつも通りのじゃれあいをしながら修兵の家に向かうのだった。


05

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