翌日、4人は学校をサボって、遊園地に来ていた。昨夜蓮華が行きたいと言い出して聞かなかったので、蓮華対男子3人でジャンケンをした結果、あっさり蓮華のひとり勝ちとなったのだ。そんなわけで、今日は仲良く遊園地に来ている。

「…金銭的にマズイから、昨日は鍋になったってのに…」

修兵がぼやくと、嬉しそうに笑いながら蓮華は言う。

「いーじゃんいーじゃん!どうせ使うなら楽しく使わなきゃ!」
「あのなぁ…」
「まぁ修兵、結局ジャンケン負けたのは俺たちだし、折角だから楽しめるだけ楽しもうぜ」
「…そうだな」
「ねぇねぇ修!あたしあれ乗りたい!」

蓮華が指差したのは、遊園地の定番ジェットコースター。

「へいへい、分かりましたよ」

蓮華が修兵の手を取り、その手を引っ張って駆け出す。恋次と一護は微笑ましくその光景を見守りながら、こんな会話をした。

「…修兵も神風も、さっさと付き合っちまえばいいのにな」
「だよな」
「なぁ恋次」
「あ?」
「こっそり適当に帰ろうぜ、俺たちだけ」
「…それ、大賛成」

恋次と一護はさっさと2人でその場を後にする。そして恋次は修兵にメールを入れた。メールが届くと、修兵はそのメールを確認して、放心する。

「…は?」
「ん?どしたの修」
「………恋次と一護、はぐれたから2人で適当に回るってよ。だから俺らは俺らで適当に回れってさ」
「えー!?」

4人でいろいろ回りたかった蓮華にしてみれば不服な提案である。

「どっかで待ち合わせしようよ、私4人で回りたい」
「それは分かってるけどよ…」

修兵は改めてメールを見返す。
内容は、こうなっていた。

件名:(無題)
本文:俺と一護はもう帰るからお前と蓮華で好きに回れ、蓮華は適当に言っとけよ。

まったくもって、修兵にはどうすればいいか分からない。とりあえず蓮華の機嫌が悪くなってしまったことに困ってしまった。

「…まあとりあえずジェットコースター乗ろうぜ、あれ、乗りたいんだろ」
「恋ちゃんたちと乗りたいのにー」
「待ってたって時間の無駄だろ、適当に回ってりゃどっかで会えるかもしんねぇし」
「むー」
「ここに来ることになったのも急だったし、昨日はほとんどオールだったし。まぁのんびり回りたいんだろ」
「…嫌だったのかなぁ、来るの」

蓮華がしゅんとなる。そこへタイミングよく蓮華の携帯電話が鳴った。ディスプレイには『恋ちゃん』と表示されている。蓮華は電話を取る。

「恋ちゃん?今どこ?」

電話に出るなり、蓮華は恋次の場所を問う。電話の向こうで恋次がなんと言っているのか修兵には分かりもしないが、何を言っているのか気になって仕方ない様子だ。

「うん…うん、うん。そっか、わかった。うん。ふふっ、わかったってば、もういいよ。うん、うん、じゃあ今度は4人で回ろうね、うん、じゃあばいばい」

みるみるうちに蓮華の顔が明るくなる。一体恋次は蓮華に何を言ったのだろうかと、修兵はそわそわしている。

「…恋次なんて?」

電話を切った蓮華に修兵は聞く。蓮華は修兵を見上げてにっこりと笑った。

「かわいいお姉さんに逆ナンされたから、今日はこっち優先するって。だからまた今度一緒に回ろう、ってさ」
「…へぇ」

おもいっきり、だ!
修兵は心の中でつっこむ。

「でも修もそう言ってくれればよかったのに」
「は?」
「修兵にメールしたけど、多分蓮華にはちゃんと伝えない気がしたからって、わざわざ電話してきてくれたんだよ恋ちゃん」
「そ、そうか」
「まぁ今度また4人で来てくれるって約束してくれからいいや。修、二人で回ろう」
「お、おう」

蓮華は修兵の手を握って再び駆けだす。修兵はその手を握り返しながら、無邪気に笑う蓮華に安心して、笑みを零した。





その後、ジェットコースターなどの絶叫系から、メリーゴーランドやらコーヒーカップまで、乗れるだけの乗り物を二人は乗りつくした。途中、園内にあるカフェでご飯を食べたり、おいしそうなチュロスを食べ歩きしたりした。ちなみに2人は今日一日、ずっと手を繋いだままである。端から見れば、ただのカップル、のような、兄妹、のような、そんな感じだ。

そして気付けばすっかり日も落ちていた。夕暮れが迫る空を見上げて、蓮華が言った。

「ねぇ修、最後にあれ乗ろうよ」
「あれ?」
「ほら、あれ!」

蓮華が指を指したのは、観覧車。

「夕焼け見ながら観覧車乗ってさ、なんかよくない?」
「そうだな、乗るか」
「うん!」

蓮華は嬉しそうに笑う。相変わらず繋がれたままの手が、修兵は愛おしかった。

夕暮れだからかなのか、観覧車の列は思ったよりも空いていた。多分、他の客はみんな夜景が目的なのだろう。修兵たちは手を繋いだまま観覧車に乗り込むと、そこでようやく手を離し、向かい合わせに座った。

「わ〜!」

嬉しそうに蓮華が外の景色を見渡す。
夕焼けに赤く染まった蓮華は目を細めながら微笑んでいる様は、どことなく幻想的で、とても可愛かった。修兵は外の景色よりも目の前の蓮華に夢中だった。

「ほら修!綺麗だねぇ」
「あぁ…綺麗だな」

蓮華の目が真っ直ぐに外を向いているというのに、修兵の目は真っ直ぐに蓮華に向かっている。そして少しずつ頂上に近付いていき、ようやく頂上までたどり着いたとき、蓮華がより大きな声ではしゃいだ。

「見て修!すっごい綺麗!!」

蓮華が嬉しそうに赤い夕焼けを指差し、観覧車に乗ってから初めて修兵の顔を見た。
修兵は相変わらず真っ直ぐに蓮華を見つめている。

「あぁ、すっげぇ綺麗だ」

優しい眼差しで蓮華を見つめる修兵は、はっきりとそう言い切った。蓮華は不満そうにむっと顔をしかめる。

「全然外見てないじゃん」
「見てるって」
「見てないよ」
「まぁいいから、笑えよ」
「え?」
「笑えって」

修兵が言うと、蓮華はきょとんとする。

「笑えって言われて笑うもんじゃないでしょ」
「笑って、お願い」

珍しい修兵のお願いと甘ったるい声に、蓮華は少し困惑しつつも、笑った。修兵は満足そうに笑うと、立ち上がって蓮華の隣に腰掛ける。傾く観覧車が少し怖かったのか、蓮華は隣に移動してきた修兵に思わずしがみついた。

「わっ!修!びっくりするじゃん」
「…」
「…修?」

修兵はじっと蓮華を見つめた後、堪えきれずにその華奢な体を抱きしめた。ぎゅっと力強く、だけど壊れてしまわないように、なるべく優しく。

「っ、修!?」
「…綺麗だぜ」
「はっ!?ちょ、どうしちゃったの!?熱でもあんの!?」

パニックになる蓮華の体を解放すると、修兵は真っ直ぐに蓮華を見つめる。蓮華はなぜ修兵がこんなことをしているのか、さっぱり分かっていない。

「…ごめん」
「え…?」

修兵はそう言うと、突然、蓮華の唇を塞いだ。


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