蓮華の歌声にすっかり魅了された3人が必死に蓮華をスカウトするも、結局蓮華はのらりくらりとそれをかわした。

3人は蓮華の勧誘を諦め、その後は4人でゲームをしたりして盛り上がり、日も傾き始めた頃に銭湯に行った。風呂上りの4人が、並んで夜道を帰宅する。少し髪の濡れた蓮華の頬は薄く桃色で、見慣れてるはずなのに、どうも色っぽく見えてしまったのは他でもない、修兵だ。

「おい蓮華、ちゃんと髪乾かしてから出て来いよ、風邪ひくぞ」
「だーいじょーぶ!」
「ったく…」
「心配性だな、修兵」

ニヤリと恋次が笑って、修兵の肩にがしっと腕をまわす。

「俺の髪が濡れてても心配してくれねぇのにな」
「てめぇが風邪ひこうと知ったこっちゃねぇんだよ」
「ひっでぇ。なぁ蓮華、酷いよな」
「うん、修ひどい」

冗談だと分かっているのに、それでもしょげてしまうのが男心である。一護が呆れたようにため息をついた。

「恋次、あんまり修兵いじめんなよ、繊細なんだから」
「わーってるって。でも繊細だからこそいじめたくならねぇ?」
「わ!恋ちゃんドSだね!」

蓮華が笑う。
修兵も一護と同じように、呆れたような溜め息をついた。

「いじめられるのは好きじゃねー」
「おお?じゃあ修兵くんはいじめるほうが好きなのかな?」

恋次はさらに茶化す。そこへ蓮華の天然が便乗する。

「修もは昔っからいじめっ子だったもんね!」
「いや、そういう意味のあれじゃなかったんだけどな…」

ま、いいか、と恋次は笑う。蓮華はそれが下的な意味での会話だと分かっていなかったらしく、きょとんとして小首をかしげた。蓮華にそういう話を教え込んだら、修兵がブチ切れるのを分かっている恋次も、これ以上は何も言わなかった。





帰宅して、蓮華は2階の客間に4枚布団を敷いた。それを見て修兵が顔を歪める。

「え、お前もここで寝んの?」
「え、ダメ?」
「ダメっていうか…」

他の男に蓮華の寝顔見せるなんてどうも嫌だなあ、と独占欲。うまく言えないでいる修兵のところに、助け舟の恋次と一護がやってきた。

「いや、夜は次のライブのミーティングしようかって言ってたんだよ。だから蓮華にも聞かせられねぇなあって思ったわけ。な、修兵」
「あ、あぁ、そういうこと」
「そっかあ…じゃあ仕方ないね。でも片付けるの面倒だから、布団出したままでいい?」
「まあでっけぇ男3人で寝るんだ、丁度いいだろ」
「うん、じゃああたし修の部屋で寝る」

おやすみ、告げて、ちょっと拗ねた蓮華がぱたぱたと修兵の部屋に駆けて行った。一護が再び溜め息をつく。

「別にここでもいいじゃねぇか、ミーティングなんてする予定なかったし」
「ま、しゃーねぇよ一護。修兵はこういうとこ女々しいから」
「…」
「…寂しがってるぜ、蓮華」
「わかってる」

修兵はガシガシと頭をかいた。

「ま、修兵もオトシゴロだもんな、不安になる気持ちもわかるけどよ、2歳年下で寂しがりやの幼なじみを一人ぼっちにさせるのはどうかと思うぜ」
「…そうさせたのは恋次だろ」
「でもそれを望んだのは修兵だろ。恋次は代弁しただけだ。そしたら結果こうなった、それだけ」

一護がすぱっと言い切った。修兵はうっと言葉に詰まる。

「守ってやるってんなら、なるべく目の届くところに置いとけよ修兵」
「…ちょっと蓮華連れてくる」

そう言って客間を出た修兵を見送って、恋次と一護は顔を見合わせて困ったように笑った。

「ほんと、面倒だなアイツ」
「独占欲の塊みてぇなヤツだからな、昔から」
「へぇ、どんな風に」
「まだ蓮華が小学生のときだ。俺が蓮華と2人でジャングルジムで遊んでたら、それじーっと遠くから見てよ、家帰ったら俺ン家の前で待機してやがってさ、そんで勝手にキレだしたわけ」
「ぶっっ!!女々しすぎるだろそれ!」
「蓮華は俺が守るって昔から言ってたからな、俺に取られたってのが守れなかったっていうのに繋がったんじゃね?」
「あいつ、そんなに昔から神風のこと好きだったんだな」
「だな。ただ本人はその気持ちについ最近まで気付いてなかったんだけどな」
「アホだな」
「あぁアホだぜ。それで気持ちに気付いたのが2年くらい前。あの事件があって、ボッコボコにされてまで蓮華のことを守りたいって思ったときに、ようやく蓮華が好きって認めたらしい」
「でもその前からずっと好きだったってわけか」
「そうそう、だから諦めたくても今更諦められねぇんだろうな、蓮華のこと」
「でもあいつ去年も彼女いたよな?」
「ここ2年間の間に出来た女たちはみんな蓮華を諦めるための道具みたいなもんだったんだぜ、実は」
「…かわいそうだな、その彼女だった人たち」
「ま、本人も反省してるし、そんなの無駄だって分かったから今はもう蓮華しか見えてねぇんだろうな。アイツも成長したなぁ」

しみじみと恋次が言うと、客間の扉があいて、修兵と蓮華がひょこっと顔を出した。蓮華は呼ばれたのが嬉しかったのだろう、にこにことしている。

「何の話してたのー?」
「修兵はただのヤリチンですよって話」

恋次が言うと、修兵の顔がみるみるうちに鬼のようになっていく。

「やりちん?」

蓮華がぽかんとそういうと、恋次と一護が爆笑した。修兵は顔を赤くして恋次に飛び掛った。

「おまっ、蓮華の前でそういう発言すんなってあれほど言っただろうが!!」
「ワリーワリー口が滑ったー」
「全然反省してねぇだろ!!」
「まあヤリチンは事実だし?」
「それは過去の栄光だっつったろーが!!」
「ねーやりちんってなにー?」
「蓮華!お前はその言葉を連呼すんな!!!」

一気に賑やかになった客間。苦情がくるよーと蓮華は笑っていたが、あんまり気にしていないようだった。

そして4人は朝まで騒ぎ散らした。


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