学校終わり、修兵と蓮華はそのままふたりで鍋の材料を買いに行って帰宅した。ちなみに今日の鍋は、あの長いジャンケンを勝ち抜いた一護の水炊きに決定した。キムチ鍋が大好きな修兵は、帰宅してからも少し拗ねている。

「そんなに拗ねないでよ修」
「うるせー」
「ほんっとに子どもだよね、そういうとこ」
「だって水炊き、味ねぇもん」
「だからポン酢とかで食べるんじゃない」

蓮華が呆れたように言った。修兵はふんっと鼻を鳴らしてリビングでギターをかき鳴らす。

蓮華はそんな修兵を無視して水炊きの準備をしている。昆布とかつおぶしでしっかりと出汁をとり、修兵の為に、ほんの少しだけ、こっそり味付けをした。その間に野菜を切り、それをお皿に盛り付けて、恋次たちが来るまで冷やして待っておく。鍋だけだと寂しいので、鳥もも肉の照り焼きをいくつか準備した。恋次たちが来た頃に焼いて、完成してから切り分ければ鍋もいい感じに完成しているはずである。

しめの雑炊用のご飯も炊きはじめ、あとは恋次たちが来るのを待つばかり。蓮華は大根をすりおろしながら、修兵に声をかけた。

「ねぇ修、てのひら、歌って」
「…いやだ」
「ケチ。いいじゃん、別に減るもんじゃないし。あたしあの歌覚えたいんだ」
「………適当でいいな?」
「うん!」

修兵はアコースティックギター一本で、バンドのときよりしっとりとてのひらを歌った。蓮華は鼻歌を歌いながら、メロディーを頭に叩き込む。てのひらが歌い終わると、修兵はノッてきたのか、他のオリジナル曲も歌い始めた。蓮華もそれに合わせて歌ったり、ハモったりしながら、ふたりで楽しい時間を過ごして待った。

しばらくそうしていると、インターホンが鳴る。蓮華がぱたぱたと愛らしく駆けながら、玄関を開けに行った。そして恋次と一護が蓮華の後に続いてやってきた。

「よう修兵、邪魔するぜ」
「邪魔するんなら帰れよ」

恋次の言葉に修兵は笑いながら返した。恋次はリビングのソファーにどかっと座ると、ギターを弾く修兵に合わせて、エアドラムをたたき出す。一護はというと、勝手に冷蔵庫を開けてお茶を飲み始めた。とても自由な光景だが、何てことない、いつもの光景である。

冷蔵庫の中をみた一護が、蓮華に声をかけた。

「野菜も肉も結構量あるな。これ食いきれんのか?」
「男の子3人もいるから大丈夫だって」

へらへらと蓮華が笑う。そんな蓮華に恋次が声をかけた。

「蓮華!鍋食うぞ!」
「もう食べるの?」
「食う!」
「はいはい、じゃあ用意するから、ちょっと待ってね」

一番年下の蓮華がお母さん状態である。蓮華が鍋の準備を始めると、一護はそれを手伝いはじめた。

「いいよ一護、あたしやるから」
「いや、準備くらいなら出来るし手伝うぜ。あいつら文句ばっかで何もしねぇから大変だろ」
「もう慣れてる」
「…神風も大変だな。とりあえず何すればいい?」
「んー、じゃあそこの器にポン酢とごまだれ入れて、薬味と一緒に並べといて。あとあっちにガスコンロあるから、それ用意しててくれると助かる」
「了解」

優しい一護に比べて、あとのふたりはすっかり音楽トークに夢中である。これももはやいつもの光景なので、気にする者はいない。

蓮華はすぐに食べられるように、まずキッチンで野菜を炊いた。炊いている間に準備していたもも肉の照り焼きを焼く。ご飯はまだ少しかかるが、使うのはしめの雑炊なので気にしない。野菜がしんなりとしてきた頃、鍋を一護に運んでもらって、蓮華は焼きあがった照り焼きを切り分ける。それがテーブルに並んだ頃、匂いにつられたのか修兵と恋次もふらふらとやってきた。

「おー!うまそー!」

恋次が目をきらきらとさせる。蓮華は冷蔵庫から豚肉と牛肉を取り出して、それもテーブルに並べた。

「野菜はもう火通ってるから好きに食べてね。なくなったらここにあるのをどんどん足していって。お肉はしゃぶしゃぶ感覚で食べてくださーい」

蓮華が言うと、口々に返事をする。修兵はこっそりと蓮華の照り焼きをぱくりと食べたが、恋次に見つかってしまった。

「修兵!てめぇ先に食うんじゃねぇよ!」
「うっせぇな、腹減ってたんだぞこっちは」
「準備手伝わなかったやつがする行動じゃねぇぞ修兵」

ふたりの言い合いに、一護がさらっと口を挟むと、蓮華は笑った。

「そうだね、一護はちゃんと手伝ってくれたもんね。あたし結婚するなら一護みたいに優しい人がいいや」
「!!!」

蓮華の言葉に、修兵は硬直した。恋次も一護も、笑いを堪えるのに必死である。

「じゃ、食べよっか」

そんなことにも気付かない蓮華は、さらりとそう言うと、手を合わせた。他の3人もそれにならう。

「「「「いっただっきまーす」」」」

4人の声が重なって、楽しいお鍋の時間が始まった。
修兵が少しへこんでいたことに気付いていたのは、きっと恋次と一護だけだっただろう。


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