「なぁ」 「なーにー?」 ゴールデンウィークがあけ、次の週の月曜日、相変わらず2人乗りで登校しているときだった。修兵が蓮華に声をかける。 「今日、恋次と一護、泊まりに来るんだけど」 「えっ、そうなの!?」 「だからみんなで飯食いに行こうかって言ってたんだけど、お前も来るか?」 「行きたい行きたい!どこ行くの?」 「多分、普通にファミレス」 「…ガスト?」 「ガスト」 ファミレスと聞いて、蓮華が渋った。 「えー折角だからもっといいとこ行こうよー」 「アホか、俺たちにそんな金があると思うなよ」 「ぶー」 「じゃあお前行かないんだな?」 「やだ、行きたい」 じゃあ文句言うなよ、と言う修兵の言葉に、蓮華は不服そうにはーいと答えた。その後は無言で、学校まで向かった。 そして時間は過ぎて、いつも通りのお昼の風景。 修兵、恋次、一護、蓮華は、相変わらず屋上でお昼を食べていた。笑い声が響く。そこで突然、ふと蓮華が口を開いた。 「あのね、みんな今日泊まりに来るんでしょ?」 「おう!世話になるぜー蓮華!」 恋次がにかっと笑う。 「で、今日外食するんだよね?」 「あぁ、神風も来るのか?」 「うん、そのつもりなんだけど…」 一護の問いに、蓮華が少し困ったように笑う。修兵が呆れたように口を挟んだ。 「でもよ、こいつファミレス嫌だって言いやがるんだよ、ワガママだろ」 「もう!修は黙ってて!」 蓮華がぷくっと頬を膨らませる。 「そう、どうせ行くならちょっとくらい豪華なとこ行きたいなって思ったの。でもみんな学生だしお金ないじゃんか、だからね、あたしは考えました」 蓮華が高々と右手を上げる。そして宣言するように言った。 「あたしがお鍋を作ります。なので、みんなその材料費だけ割り勘してください。そしたら安上がりですむでしょ?」 そして、しーんとあたりが静まり返る。 しばらくみんな、沈黙していた。 「…え?だめ?」 自信満々だった蓮華の右腕が、寂しそうに下がっていく。それでも沈黙が続いたので、蓮華はちぇ、じゃあいいよ、と言って自分のお弁当を食べ始めた。すると恋次が口を開いた。 「いや、俺、賛成」 「ほんとっ!?恋ちゃん!」 蓮華の表情がぱあっと明るくなる。 「冷静に考えたらよ、俺どうせファミレス行ったってろくなもん食わねぇだろうなあって思ったわけ。だったら蓮華の鍋食って栄養補給した方が安上がりだし賢いなあって思うんだけど」 「さすが恋ちゃん!分かってらっしゃる!」 「蓮華の作るもんがうまいのも昔から知ってるしな」 そして蓮華の頭をくしゃくしゃと撫でた。なんやかんやで、恋次も蓮華に甘いのである。一護も頷いた。 「恋次一人暮らしでろくなもん食ってねぇもんな、折角だしいいんじゃねぇの?」 「ってことは、一護も賛成?」 「だな」 「わーい!」 蓮華がはしゃぐ。 そして修兵をじっと見つめた。 「だってさ、修」 「…わーった、わーったよ。俺もそれでいい」 「わーい!修ありがとー!」 蓮華がぎゅーっと修兵に抱きついた。 修兵は突然のスキンシップにもう心臓が大変なことになっていたのだが、それを必死に隠しながら「離れろうぜぇ」と言っていた。その光景を見て、恋次と一護が意味深にニヤついていたのは言うまでもない。 「じゃ、あたし今日すんごい気合いれて鍋作る!お肉も野菜もたくさん入れる!」 「鍋で炊くだけじゃねぇか、そんなに気合いれなくていいだろ」 「分かってないなあ修は。お鍋は出汁が命なんだよ。今日は絶対おいしいお出汁で作ってやるんだから」 蓮華が笑う。 結局修兵も、蓮華にはとことん甘いので仕方がない。 「じゃあ何のお鍋にする?」 が聞くと、3人が一斉に口を開いた。 「キムチ鍋」 「水炊き」 「寄せ鍋」 上から、修兵、一護、恋次である。 「…」 蓮華は思わず黙りこくった。 「…えっと、そんなにたくさん種類作るのはさすがに無理だよ」 「ここはキムチだろ」 「いや、水炊きをポン酢で食うのが一番だ」 「アホか、寄せ鍋でしめはうどん、これが鉄則だろ」 3人がにらみ合う。 その光景を見て、蓮華はたまらず言った。 「あーもう分かった分かった。じゃあジャンケンで決めようよ。で、勝った人のを作る。負けた人のは、また今度泊まりにきたときにでも作るよ。これでいい?」 蓮華の言葉に、3人は少し黙ったが、急に同時に右手をびしっ!と前に出した。目が本気である。さすがの蓮華も、その無駄な迫力に押し黙る。 「…だってよ、お前らここはキムチにしとけ。無駄な争いはしたくねぇ」 「それはこっちのセリフだ。次があるなら、今回は水炊きでいいじゃねぇか」 「それこそこっちのセリフだ。次があるんだったら今回は絶対寄せ鍋だろ」 そして少し、妙に静かな時間が流れたあと、3人は同時に叫んだ。 「「「ジャンケンぽん!!あいこでしょ!!あいこでしょ!!」」」 屋上に3人の本気ジャンケンの声が、しばらく響き渡っていた。それは長い間、いつまでも決着がつかなかった。 それを見て蓮華は、仲良しだなあと思ってたいたとか。 20 |