話をしているとき、修兵がひとつ欠伸をこぼした。

「修、眠い?」
「んーまあちょっと」
「ごめんね、疲れてるのに無駄話に付き合わせちゃった」
「無駄じゃねぇよ、参考になった。サンキュな」

じゃ、寝るわ、と部屋を出て行こうとする修兵の腕を、蓮華は掴んで引き止めた。

「…? どうした?」
「…あのね、修が嫌じゃないなら、一緒に寝て欲しい」
「…」

ま…まさかの!
今日だけ、と言ったあの日からもちろん一緒に寝てなどいないが、まさか再びお願いされると思ってもいなかった修兵は唖然として蓮華を見つめるばかりだ。

「疲れててひとりで寝たいっていうんなら全然いいんだけどね、でももしまあ寝てやってもいいかななんて思うなら一緒に寝てほしいなーなんて…」
「…」
「…だ、だめ?」

上目遣いでそんなことを言われたら断ることも出来なくて。

「…わーったよ」
「やた!修ありがと!」

結局この笑顔に弱い修兵である。

腕枕を要求されて、以前と同じように修兵は悶々としていた。
…いや、以前よりも悶々としているかもしれない。
蓮華は修兵に腕枕をされている状態で、ぎゅーっと修兵に抱きついているのだ。

「…蓮華、離せ」
「やだ、修あったかいし、抱き枕みたいだもん」
「…」

所詮俺は抱き枕レベルですかええそうですか知ってますよ。
心の中の修兵は、とても拗ねている。

「ね、修もぎゅーってして」
「はあ!?」
「…安心したいの。だめ?」
「…なんだよ、嫌な夢でもみてたのかよ」
「ううん、考えてた」
「何を」
「新曲、てのひら、だっけ?あの歌詞について考えてた」
「は?」
「ほら、あたし今まで友達なんていなかったでしょ?で、桃ちゃんたちが友達になってくれて、恋ちゃんも一護もすっごい仲良くしてくれて、すっごい嬉しいの」
「…」
「みんなのおかげで幸せだなって思えるようになった。だけどね、やっぱり一番は修だなって思った。一番大事なのは、修だなって」
「…」
「なんかね、自分のこと歌われてるみたいな気分になったの。守りたくて、守れなくて、後悔して、繰り返して、って。あたしいっつも後悔ばっかりだからさ」

蓮華の腕に少しだけ力が篭る。

「一番私の弱さ受け止めてくれてたの修だったのに、私いつも守ってもらってるのに、修のこと何も守ってあげられないし、結局今だってこうして守ってもらってばっかりで、なんだか何も返せてない」
「…蓮華」

蓮華は少しだけ黙り込むと、修兵を見上げて困ったように笑った。

「なーんてね、言葉足らずだからうまく言えないや」

そう言って蓮華は修兵から離れると、くるりと後ろを向いておやすみと呟いた。腕枕はしたままだが、修兵はいてもたってもいられない気分になった。背中から小さな蓮華をぎゅっと抱きしめる。蓮華は驚いたように修兵の名前を呼んだ。

「っ、修!?」
「お前さ、ほんと、いいヤツだよな」
「今さらー」

いつかと同じように言いながら、蓮華は笑った。

「やっぱり修、あったかい」
「それはお前だろ。抱き枕みてぇ」
「それさっきのあたしのセリフだって」

本当は悶々としているのだが、それは必死に隠す。

「ね、修」
「ん?」
「いつか、てのひらで泣かせてね」
「あぁ、いつかお前の為にだけうたってやるよ」
「…ん」
「…」
「…」
「…蓮華?」

声をかけるが返事はない。しばらくそのまま無言の時間を過ごすと、蓮華から静かな寝息が聞こえてきた。どうやら眠ってしまったらしい。安らかに眠る蓮華の心地良い寝息を聞いて修兵は溜め息をついた。この状況で、平気ですやすや眠ってしまう蓮華は、やっぱり自分のことを特別な目でみてはいない。

はやく幼なじみから脱出しないとな、と思いながら修兵も静かに眠りに着いた。


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