「おい」

頬に69という刺青の入った、いかにも変態かという感じの青年、檜佐木修兵は困ったようにそう言った。

修兵はおととい高校3年になったばかりだ。最後の高校生ライフを思う存分楽しもうと、そう胸に誓って始業式を終え、それから2日たち今日になったわけだが、なぜ自分の1人部屋に、しかもなぜ親がいないのに、他人の娘が勝手に入り込んで、音楽をかけながら自分のえっちぃ本を人のベッドの上でゴロゴロしながら読んでいるのだろう。

一瞬でそのすべての思考が頭の中をよぎるものの、目の前の少女をみていつもの光景だとため息をつく。

「あ、修おかえり」
「おかえりじゃねぇよ。なんで勝手に上がりこんでんだ」
「いつものことだね」
「そうだけどな」
「仕方ないよ。修ママめったに家にいないし、修は自分のこと何もしないし」
「それこそ仕方ねぇよ」
「高3にもなって炊事洗濯も自分で出来なかったらうんこだよ」
「いいんだよ別に、困ってねぇから」
「それはあたしがちゃんとしてあげてるからでしょーが」
「蓮華は俺の家政婦だからな」
「違いますーだ。まじうんこだねお前」

蓮華と呼ばれた少女は不服そうに舌をべーっとした。修兵はそんな蓮華を無視して適当に荷物を投げ捨てると、蓮華が読んでいた自分のえっちぃ本を取り上げた。

「あ、なにすんのさ」
「高校1年生になったばっかの女の子がこんなん読んじゃいけません」
「勉強してんの、いつかの彼氏の為に」
「まずお前に男とかありえねぇ」
「うっさい変態腐れうんこ」
「うんこうんこ言うな」
「うこん」
「アホか」

修兵は軽く蓮華の頭を小突いて、えっちぃ本を適当に本棚に突っ込んだ。そして部屋にあったアコースティックギターに手を伸ばして散らかった床に座る。

「またギターすんの」
「生き甲斐なんでね」
「これだから音楽バカって分かんない」
「音楽バカで結構だよ」
「音楽好きだけど、自分でしようなんて全く思わない」
「俺はこれで食っていくつもりだからな」
「そんな簡単に音楽でビッグになれるわけないじゃん」
「やってみねぇと分かんねーだろ。てかビッグになるし」
「はいはい、影ながら応援しときますよ」

蓮華は呆れたように溜め息をつき、面倒そうに自分の荷物をまとめると重々しく立ち上がった。

「帰んのか?」
「うん、今日は…もう帰らなきゃ」
「…一応、気をつけろよ。何かあったら言え」
「ん、ありがと。あ、今日晩ご飯作ってないから勝手にしてねー」
「へいへい」
「あと、明日から毎日送り迎えよろしくね修ちゃん」
「はあ?何でだよ」
「これからも私生活全般面倒みてあげるんだから送り迎えくらいしてよねー、学校一緒だし」
「めんどくさい」
「じゃあもうご飯つくりに来ないからね」
「…それは困る」
「じゃあお願いね。通り道だし別にいいでしょ。じゃあまた明日ねー」

そう言って蓮華は帰って行ってしまった。修兵は苦笑いしながら愛しい背中を見送り、そしてひとりになった部屋で、ポツリと呟いた。

「なんで幼なじみなんだろーな、あいつと」

修兵はそう言って、アコギをかき鳴らした。


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