ライブ終わり、修兵は恋次と一護と一緒にファーストフードに行き、今日の反省や今後のミーティングを行って帰宅した。終電だったので、家についたのは午前0時半頃だった。そっと家に入ると、蓮華はもう眠ったようで、家の中は静まり返っている。 「…」 ギターや機材を置くために自分の部屋に行きたいが、きっと蓮華が眠っているだろうと思って、とりあえずリビングの端っこに置いた。リビングの電気をつけて冷蔵庫を開ける。ライブ後には必ず打ち上げかミーティングがあるので外で、絶対にご飯は外で済ます修兵。そんな修兵のことをよく理解しているらしい蓮華も、どうやら友達たちと外でご飯を済ませてしまったらしく、冷蔵庫にはろくな食べ物は入っていない。そのかわり、2リットルの水と『おつかれさま』という紙が貼り付けられたコンビニのプリンが冷やしてあった。ジュースを奢れと言った本人がする行動とは思えなくて、だけど思いやりが温かくて、修兵は思わず苦笑する。 他の部屋に移してあったスウェットとバンツを持って、修兵は風呂場に向かう。ちゃんと湯も張ってあったし、あったかいままだ。 綺麗なバスタオルもきちんと用意してあるあたり抜け目がない。 「…ほんと、お前みたいな嫁が欲しいわ、俺」 ひとり呟いて、修兵はゆっくりと今日の疲れを癒した。 風呂から上がって髪を乾かし、プリンを食べた。その後しばらくリビングでぼーっとしていたが、なんとなく蓮華の寝顔でも拝んでやろうと思い立って、ギターと機材を持って自分の部屋に向かった。 そっと扉を開けると、部屋の中から聞こえるのは蓮華の小さな寝息だけ。とりあえず廊下の明かりだけを頼りに、そーっとギターと機材を片付けた。なるべく音をたてないように片付け終えると、修兵はベッドの脇に座り込んで蓮華の顔を覗いた。蓮華は運がいいのか悪いのか、修兵の方に顔を向けて眠っている。 「…ただいま」 小声で呟いて、そっと蓮華の頬に触れた。指でその輪郭をなぞれば、くすぐったそうに蓮華が身をよじるが、それがどうも色っぽかった。 「…」 理性を保てなくなりそうだったので、とりあえず蓮華の額にキスをした。これはある意味、自分の理性を保つための行為でもある。(と、言い聞かせてみる) 唇を避けたあたりが大きな進歩だ、俺。なんてことを思いながら修兵は立ち上がって部屋を出ようとする。 が。 「……しゅう?」 「!」 蓮華が目を覚ました。 「…悪い、起こしちまったな」 「ううん…だいじょぶ……さっき帰ったの?」 「いや、1時間くらい前。風呂入ったり、いろいろしてた。プリンも食ったよ、ありがとな」 「ん」 蓮華はごしごしと目をこすりながら起き上がった。 「おいおい、寝てていいぞ」 「明日日曜日だから大丈夫」 「そういう問題かよ」 「うん」 修兵は部屋の明かりをつけて、蓮華の側に歩み寄ると、ベッドに腰掛ける。 「…修、まぶしい」 「ふっ、ぶっさいく」 「まぶしいんだから仕方ないじゃん」 蓮華はまぶしさのあまり顔を歪めている。しばらくして光になれた蓮華は、ふにゃりと寝起きらしい笑顔で修兵に言った。 「おかえり、修」 「…あぁ、ただいま」 「楽しかったよ」 「そりゃよかった」 「3番目のバンドさん、すごい人気だったね」 「そうだな。なんであの人たちがトリじゃないんだって、裏でずっと恋次と言ってた」 「そう?あたしは修兵たちがトリで大正解だったと思うよ」 「なんで」 「だってあの人たち、華がないもん。バンドとしてはまとまってるし上手だしルックスも悪くないけど、なんかそれだけって感じだった。歌に気持ち篭ってなかった」 「そんなことわかんのかよお前」 「分かるよ。だってルックスとか見て決めてるんじゃくて、純粋に音楽が好きなお客さんだもん、私」 「…」 「あの人たちの熱狂的なファンじゃないからこそ分かるの。だから、あれだけファンがいるのに売れないんだよあの人たち」 蓮華の発言はいつだって、とても参考になる。 「じゃ、俺らには華があるってことだな」 「うん、華はあるし歌に気持ちも篭ってるよ。一生懸命なのも必死なのも伝わってくる。でもあの人たちに比べれば鼻くそみたいな技術レベルだけどね」 「…殴るぞ」 「事実じゃん」 へらへらと笑って蓮華は言った。確かに、3番目のバンドに比べれば修兵たちは鼻くそみたいな技術レベルだ。 「だから、悔しかったらもっともっと上手になって。そしたら私きっと、最後の曲で泣ける」 「なんだよ、下手くそだったから泣けなかったのかよ」 「下手じゃなかったんだけどね、新曲だったからさ、やっぱ他の曲に比べたらまとまりがなかったから、あー残念だなって思ったら、なんか泣けなかった」 「…今日、お前だけは泣かせたかったんだけどな」 「ま、ジュースかかってたしね!」 そういうことじゃないんだけどなー、と修兵は心の中で苦笑い。 「でもやっぱお前はいつもちゃんと見てんだな、今日のミーティングでも最後の曲はもっと煮詰めたいなって話になってた」 「そりゃー修たちの純粋なファン第一号ですから」 「もうお前マネージャーやれよ」 「絶対やだ。ファンの女の子に目つけられたくないもん」 「その程度でつけられるかよ」 「つけられるの、女の子は怖いんだからね」 そしてふたりは、しばらく今日のライブのことについてあれやこれやと話をした。 18 |