5月5日、今日はこどもの日。
そして修兵たちのバンドのライブである。

蓮華は桃とイヅルと冬獅郎を連れて、電車で20分の街にあるライブハウスに来ていた。オープンしてすぐに入ったにも関わらず客は大勢いる。ライブハウス慣れしている蓮華はともかく、あとの3人はそわそわと落ち着かない。

「みんな落ち着きなって」
「だ、だって」

桃はあたりをキョロキョロと不安そうに見渡す。バンドのライブ、というだけあって、お客さんのテンションも高めである。楽屋から出てきた出演者がお客さんたちと喋ってる様子も伺えた。しかし修兵たちは姿を現さない。

「ねぇ蓮華ちゃん、先輩たちは?」
「修たちは楽屋。ライブ終わるまでは他のバンドさんたちみたいにお客さんと喋ったりしないんだ」
「どうして?」
「ああ見えて緊張しやすいんだよ」

意外と可愛いでしょ、と蓮華は笑う。
4人でドリンクカウンターでドリンクを受け取り、適当な場所で固まる。5分押しでライブが始まると、一気に会場が沸く。

今日の出演バンドは修兵たちを含め4組で、修兵たちはトリ。3組目のバンドがかなり人気だったらしく、そこで一気に盛り上がった。そのバンドが終わったので、次は修兵たちの番だ。蓮華は3人を連れてずずいと前に行く。

「こ、こんなに前でみるの?」

かなりロックな雰囲気に、桃はあまり馴染めていないのか、前に行くのを少し嫌がる素振りをみせた。

「いや?」
「い、いやっていうか、怖いなって…」
「あぁ、さっきのバンド、ダイブしてたもんね。大丈夫、修たちはそんなのしないから」
「ほんと?」
「ほんと!」

蓮華がにこっと笑うと、桃も安心したように笑う。修兵たちが出てくると、ファンなのであろう女の子たちがきゃあっと沸いた。会場に流れているSEが止まると、修兵のギターのアルペジオが流れ出し、修兵の歌声が響いた。

まずは彼らの十八番である曲から始まった。すっかり覚えている蓮華は口ずさみながらライブを楽しんでいる。そして一曲歌い終えた修兵は、力強く右腕を掲げた。

「盛り上がっていくぞー!!!」

マイクを通して、修兵の楽しそうな声が響く。会場が沸き、今日一番の盛り上がりをみせた。




その後もMCを挟みながら4曲歌い終え、最後の曲になった。次で最後です、と修兵がいうと、えー!?という会場からのレスポンス。修兵は笑いながら、じゃああと1時間うたってやろうか?と冗談でかわすと、ギターのチューニングをしながらMCをし始めた。

「えー、次でまあ最後なんだけど、新曲、持って来ました」

またしても会場が沸く。この新曲を楽しみにしていた蓮華は、わくわくしながら曲を待つ。

「俺ら普段はさ、あんまりこういう曲歌わないんだけど、でも、こういうのも悪くねぇなあって思って、作ってみました。…ラブソングです」

チューニングを終えた修兵は、真っ直ぐに前を見た。そして力強く言う。

「じゃ、最後の曲、聞いて下さい」

修兵が言うと、恋次のドラムのカウントが入る。修兵の切ないギターの音色に、一護のベースが重なる。ロックな修兵たちには珍しい、バラードである。



ずっとその手に触れていた まだ幼くて小さな手
握り返す君の弱さを 僕は誰より知っている

もっとその目に写してよ 僕をすり抜けていく瞳
いつか君は知らない誰かを 心に宿すの?

変わりすぎて 変われなくて 変わらなくて 空回って
あの日見てた 夕陽のような 儚い日々を 数えてた今日

自由を求める君の声がききたい
醜い本音をさらけ出せよ
時々切なげに歪む君の笑顔
悲しいときくらい泣けばいいよ
僕の側で


そっと体を抱き寄せた なぜかこのまま消えそうで
腕の中で眠る君の唇を 塞いだ夜に溺れそうになった

守りたくて 守れなくて 後悔して 繰り返して
赤く染まる 街の中で 手を繋いでた もう手放さない

自由に世界を泳ぎまわればいいさ
汚れた明日を探しに行こう
無理して今強くならなくたっていいよ
きっと僕が君を守るから

自由を求める君の声がききたい
醜い本音をさらけ出せよ
時々切なげに歪む君の笑顔
悲しいときくらい泣けばいいよ
僕の側で

僕の側で



しっとりと、けれども力強い歌声だった。最後の曲を歌い終わり、修兵が息切れしながらもありがとうと囁けば、会場は今まで一番の大盛り上がりをみせた。

最前列では、桃がぼろぼろと大泣きしている。イヅルも鼻をすすっていた、どうやらさり気なく泣いていたらしい。冬獅郎はじっとステージを見たまま動かない。

その日のイベントも終わり、蓮華たちはライブハウスの外で修兵たちを待った。しばらくして、汗だくの3人が現れる。

「あ、修だ!」

蓮華が嬉しそうに修兵に向かって手を振る。

「おう、今日はありがとな」
「おつかれさま、かっこよかったよ」

蓮華はにこにことしている。

「紹介するね、あたしの友達!桃ちゃんに、イヅルに、冬獅郎」
「おう、いつもこいつの相手してくれてありがとな」
「保護者ぶるなー」

蓮華はぷくっと頬を膨らませた。3人はそれぞれに挨拶を交わす。そこへ他のお客さんのところに挨拶に行っていた恋次と一護も蓮華たちのもとへやってきた。

「おう蓮華!」
「恋ちゃん!一護!おつかれさま!」
「友達?」
「そ。桃ちゃんにイヅルに冬獅郎」
「今日はわざわざありがとな」

恋次が二カッと笑う。

「みんなにも紹介するね。こっちの黒髪が修で、赤髪の人が恋ちゃん、それからオレンジ頭が一護!わかりやすいでしょー」

蓮華が笑顔で言うと、場の空気が和む。桃が最後の曲をひどく気に入ったようで、その感想を一生懸命伝えていた。

「おい蓮華」

修兵が蓮華に声をかける。

「ん?」
「どうだった?新曲」
「うん、すっごいよかった。今まで聴いてきた中で一番好き」
「泣いただろ?」
「桃ちゃんは号泣してたし、イヅルも泣いてたけど、私は泣けなかったなあ」
「え、まじ?」
「まじまじ大まじ」
「なんで」
「まあ詳しくは今度。約束のジュース、奢ってよ」
「…ま、しゃーねぇな、また今度な」
「へっへーよろしく」

その後も何度か言葉を交わすと、蓮華たちは帰って行った。修兵は他のお客さんとも挨拶を交わして、先にひとりで楽屋に戻った。そして椅子に座り込んで、悔しそうな顔で笑った。

「…泣かせたかったなあ」

小さな声で、ぼそりと呟いた。
あの鈍感な蓮華のことだから、まさか自分のことを歌われているだなんて思ってもいないだろう。ましてや修兵がときどき蓮華を見ながら歌っていたことにも、もしかしたら気付いていないかもしれない。もしかすると、そんな下心があったから彼女の心には届かなかったのかもしれない。

「あーくそー」

修兵は一度伸びをして、自分の実力のなさに打ちひしがれつつも、機材を片付けていった。


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