そんな風に楽しい毎日はあっという間に過ぎて行った。気付いたころには4月も終わり、もう5月。蓮華の家からは、特に何のアクションもなく、蓮華の傷もすっかりよくなり、現状平和である。

そして5月5日の子供の日は修兵たちのバンドのライブだ。

朝、いつも通り蓮華と修兵は2人乗りで学校に向かう。今日の天気はあまりよくない曇り空だった。

「今日曇ってるねー」
「そうだな」
「修、ちゃんと傘持って…来てるわけないよね」
「ロックだからな」
「意味分かんない」
「あ、俺今日から帰るのめちゃ遅くなるからよろしくな」
「スタジオ?」
「おう、5日ライブだしな」
「友達連れて見に行くね」
「それじゃあ恥かけねぇな。絶対いいライブにするわ」
「うんっ!楽しみにしてる!」

蓮華は修兵たちの歌が好きだった。なので、いつもライブ前から楽しみで仕方ないらしく、ワクワクを前面に出してくる。そんな蓮華にいつも修兵は救われていた。たったひとりでも下心なく自分たちを応援してくれる人間がいるというのは心強いものだ。朝から後ろで嬉しそうに楽しみにしてるなんて言われれば、そりゃもうやる気も急上昇するわけで。

「任せとけ。今回は泣かすからな」
「お!いいねいいね!じゃあ泣かなかったらジュース奢ってよ?」
「じゃあもし泣いたらジュース奢れよ?」
「あったり前じゃん」

2人で笑いながら登校した。





「桃ちゃんおはよー」
「あ、蓮華ちゃん!おはよう」

蓮華は教室に入って真っ先に桃に挨拶をする。桃も可愛らしく笑って蓮華の挨拶に答えた。桃は蓮華の後ろの席で、一番最初に仲良くなった友達だ。中学卒業まで修兵と恋次しか友達と呼べる人間がいなかった蓮華にとって、桃は初めての女の子の友達で、いまやすっかりかけがえのない存在となった。

入学早々、テンパってあれこれ忘れてしまったらしい桃を見かねて蓮華が話しかけたのがきっかけで仲良くなり、その後すぐに桃の幼なじみの冬獅郎と仲良くなり、桃と冬獅郎の中学からの同級生イヅルと仲良くなった。修兵たちといない間は、いつもこのメンバーで集まっている。

「おはよう神風さん、雛森さん」
「あーイヅルおはよ」
「オス」
「シロもおはよ」
「シロって言うな」

すっかり不機嫌そうな冬獅郎を見て蓮華はクククっと笑う。シロというあだ名はすっかりネタだ。

「あ、そうだ!みんなさあ5日って暇してる?」

蓮華がぱあっと明るくそう聞いた。

「5日?空いてるよ!」
「僕も暇だよ」
「シロは?」
「シロって言うな!…空いてるけど何でだよ」
「良かった!あのね、修…檜佐木修兵たちがライブするんだ。良かったら一緒に行かない?」

蓮華が修兵の名前を出した瞬間、教室の中はしんと静まり返る。修兵と恋次は、見た目も派手だし授業もまともに出ないしで、何度か喧嘩などの問題を起こして定額処分を受けていた。まぁ喧嘩といっても、本人たちが望んでやったわけではなく、派手な見た目のせいでちょっと絡まれてしまったのでしぶしぶ、と言った感じだったのだが。ちなみに一護はあのメンバーの一員だが、問題も起こさないし授業も真面目に受けているため、問題児扱いはされておらずむしろ優等生扱いだ。

そんな目立つ2人とえらく仲のいい蓮華も一目おかれており、いつも一緒のこの3人以外からは、なんとなく避けられていた。もはや全学年で知らない者はいないというから驚きである。

まんまるい目を更に丸くさせて桃は聞いた。

「檜佐木って、3年生の先輩たちのことだよね?」
「そだよ」
「なんか怖いなあ、いい噂聞かないし…」
「そんなことないって、ただのバカだよ。それにああ見えてすっごくいいヤツなんだよ〜」
「そうなんだ…ライブかあ〜あたしライブって行ったことないから行ってみたいなあ」
「ホント!?おいでおいで〜!絶対楽しいから!」

桃がそう言うと、蓮華はパアッと顔を明るくさせた。

「でもライブって高いんじゃないの?」
「チケット1枚1000円で、それとドリンク代500円!それに交通費で大丈夫!」
「え、そうなの?ライブってよく5000円とか聞くし、もっとすると思ってた…」
「それはプロの人だからね、修たちは別に有名でもないし、それにライブったってちっちゃいハコだしね。もしかしたら想像してるのとはちょっと違うかもだけど」
「へぇ〜でもなんだか楽しそう!あたし、行きたい!」

桃がニコッと笑って手をあげて言った。蓮華もホントに!?ありがと〜!と嬉しそうに桃に抱きつく。

「イヅルとシロもおいでよ!」
「シロって言うな!…別に興味ねぇし」
「シロちゃん…来てくれないの?」

しゅんとしながら桃が言うと、冬獅郎はうっと声を詰まらせた。冬獅郎とイヅルは桃に恋心を抱いており、そのことをすでに知っている蓮華はニヤッと悪戯に笑ってみせた。

「シロ〜行こうよ〜桃ちゃんも行きたがってるし」
「テメェな…」
「イヅルは行くよねー?」
「ひ、雛森さんが行くなら喜んで!」
「ほら、行かないって言うのシロだけだよ?」
「…わーったよ!行けばいいんだろーが!」
「わーい!シロありがとうー!」

蓮華が嬉しそうに言うと、冬獅郎はハアっと呆れたように溜め息を吐く。蓮華はニコニコとしながらライブハウスの場所を説明し、待ち合わせ場所を決めた。桃は楽しみにしているようで、イヅルは桃と一緒にいたいようで、冬獅郎は仕方なし、という感じだが、蓮華はさほど気にもせずに、このことをメールで修兵に伝えた。









「…恋次ー」
「なんだよ」
「5日、蓮華が友達3人連れて来るってよ」
「おーおーおー、マジか。いいじゃんノルマ助かって」
「そうなんだけどよ、新曲で泣かせないと全員にジュース奢らせるって」
「ははは!アイツらしい気合いの入れさせ方だな!」
「しゃーねー、ワガママなお客さんのために新曲固めていくかー」
「蓮華にだけはつくづく甘ぇな」
「うるせー」

そんな5月の曇りの日、休み時間の出来事。


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