一護にも理解を得た日の帰り道、いつものように蓮華を後ろに乗せながら修兵は歌っていた。どうやら新曲らしく、蓮華も耳を傾けている。

「いい曲だね」

歌い終わった修兵に蓮華が言った。

「そうか?」
「うん、Bメロが一番好き」
「さっすが、分かってんじゃん。俺もBメロ一番好き」
「修兵が作る歌ってBメロが印象的だよね」
「でも俺はサビをもっと強調したいんだけどなあ」
「いいじゃん。あたしは修兵の作る歌全部好きだよ」
「そりゃどーも」

蓮華に言われ、ガラにもなく少し照れてしまう。そんな情けない顔を蓮華に見られるのはゴメンだと、必死に顔を隠した。

「あー、そういえば明日俺スタジオだから飯いらねぇ」
「そっか、分かった。今日は晩ご飯何にする?」
「ナポリタン」
「…ほんっとに子供だね…」
「うるせー」
「あ、あたしの口癖パクったな」
「移ったんだよ。今日はこのまま買い物行くか?」
「ううん。多分ナポリタンの材料なら揃ってるから大丈夫」
「じゃあこのまま帰るぞ」
「うん」

夕焼けが二人を見守る中、仲良く家に帰って行った。



蓮華が晩ご飯を作ってる間、修兵は部屋にこもって練習をしていた。新曲は出来たからあとは明日合わせをするだけなのだが、完成度を高めるためにひたすらギターをかき鳴らして歌っているのだが、どこか納得できないようで修兵は僅かにイライラしていた。ご飯を作り終えた蓮華が修兵を呼びに来たのはそんなときだ。

「ご飯出来たよ」
「んー…ちょい待ち」
「あのね修」
「んー?」
「イライラしてたって歌は綺麗に歌えないよ」
「!」
「ご飯食べて落ち着けば?」

悪戯っぽくそう笑って、蓮華はキッチンへと戻って行く。ぽかんと小さな後姿を見送った後、適わないなと修兵は苦笑する。いってることは彼女が正しい。こういうとき、正直蓮華は頼りになる。ある意味修兵の精神的な部分を補ってくれていた。

「んめぇ」

ダイニングには相変わらず蓮華の手料理が並べられていた。いただきますの挨拶をしてすぐに修兵はまだ湯気の立つナポリタンを口に放り込んで、上記のセリフを吐く。蓮華の料理上手には毎度毎度感謝しっぱなしである。

「いつもそう言ってくれてありがとね」
「でもピーマン入ってるのは頂けねぇな。ロックじゃねぇ」
「うるせー。残さず食べなさい、っていうか修ピーマン食べれるじゃん」
「今日は気分じゃねぇ」
「何それワガママすぎ」

修兵の良く分からない気分には付き合ってられないかというかのようにため息をついて軽蔑のまなざしをむけると、蓮華はニュースを見ながら自分もナポリタンを口にする。なんやかんやと文句を言いながらも修兵の大好物であるウインナーがたっぷりと入ってあるあたりが蓮華の優しさである。

「ごっそさん」
「お粗末様でしたー」

蓮華の倍の量はあろうかというナポリタンを食べ終えた修兵は、手を合わせて空になったお皿をシンクに運ぶ。次いで蓮華も食事を終えたようで、修兵よりも小さな空のお皿を運ぶ。

「あ、水に付けといて、あとで洗っとくから」
「いやいい、俺やるわ」
「…珍しい。熱でもある?」
「あるかボケ、いたって正常だ」
「なんか企んでる?」
「ねぇよ、いいから先風呂入っとけ」
「分かった、ありがと修」

蓮華は風呂場に行く。その背中を見送って、ぽつりと一言。

「…それはこっちのセリフだっつの…」

いつも飯作ってくれて、掃除してくれて、洗濯してくれて、俺がさっきみたいにイライラしてても気付いてくれて、悩んでるときは励ましてくれるし、お前がいるだけでこんなに幸せなんだよ。いつもは家政婦だとか母親みたいだとか言って偉そうにしてるけど、ほんとはめちゃくちゃ感謝してるんだぜ?

「いつもマジありがとな、蓮華」

そんな修兵の珍しいお言葉を、蓮華が聞いているはずもなかった。


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