翌日、目を覚ました修兵はベッドの中に蓮華がいないことをまず確認した。次に美味しそうな匂いがキッチンが漂ってくるのを確認し、この家にちゃんと蓮華がいることを確認して安心して笑みを零す。修兵は大きなあくびをしながらスウェット姿のままキッチンに移動した。 「ふわ〜あ…はよ」 「あ、修おはよ〜」 蓮華はにこっと笑う。冷やしておいたこともあってか、目元の腫れは少しひいていた。制服姿にエプロンの蓮華は、すっぴんにちょんまげで朝ご飯を準備していた。昨日までの申し訳なさや不安はすっかりなくなったようで、修兵は安心しながらダイニングのイスに腰掛けた。 「はい、朝ご飯」 「…豪華だな」 「なにがー普通だよ」 目の前に出されたのは、トースト、目玉焼き、ポテトサラダ、トマト、コーヒー。こんなに豪華な朝ご飯なんて何年ぶりだろうと修兵はぼんやり思う。 「先食べてていいよー」 「ん、待ってる」 「じゃあちょっと待ってて」 蓮華は片づけをしていたようで、それを終えるとエプロンを脱いで同じく修兵と同じく席に着いた。 「お待たせ。じゃあ食べよー」 「おう」 「「いただきまーす」」 蓮華はテレビを付けるとパンにバターを塗り始める。修兵は食パンの上に目玉焼きを乗せて食べ初めた。 「またそんな食べ方する」 「うるせーよ」 「ホントに子どもだね」 「黙れっつの」 修兵はボサボサの髪の毛を気にする事もせず、淡々と朝ご飯を食べる。 「…おいしい?」 「当たり前、んめえ」 「良かった。ねえ修、昨日ちゃんと寝れた?」 「なんで」 「ちょっと隈できてる」 「お前はまだ目ぇ腫れてる」 「うるせー。で、寝れた?」 「寝た寝た、気にすんな」 「うそ、絶対寝れてないでしょ。ごめんね?」 「気にすんな」 「今日ちゃんと学校で寝るんだよ?」 「…それってあんまり言っていいことじゃねぇよな」 「そうだね」 クスッと笑う蓮華が可愛くて、ふと昨夜のことを思い出す。罪悪感に飲まれるのが怖くなって、その不安をかき消すように修兵も笑った。 朝食を食べ終えて、蓮華が洗い物をしている間に修兵は用意を終わらせた。蓮華も洗い物が済んだあと歯磨きをして珍しく化粧をし始めた。どうやらコンシーラーとファンデーションで目元の傷を隠そうとしているらしいが、まだ赤黒いそれはなかなか隠せはしない。うーんと蓮華は困ったように首をかしげた。 「…無理して行かなくていいぞ、学校」 「え?」 「帽子被ってても目立つだろうし、化粧でも誤魔化せねぇだろ。腫れ収まるまで休めば?」 「…んーん、行くよ、せっかくおばあちゃんが学費払ってくれてるんだから」 「…そうか」 「メイクしてもなんかムダっぽいから、修またガーゼしてよ」 「はぁ?」 「そしたらキャップもメイクもいらないじゃん」 ナイスアイデア!と言わんばかりの笑顔で蓮華が言う。もはや傷を誤魔化すことを放棄してしまおうということらしい。そんなことしていったら学校で友達にいろいろ言われるのでは、なんて思った修兵だが、そんな不安をよそに蓮華はさっさとファンデーションを落とすと修兵に救急箱を持ってきた。 「じゃ、よろしく」 「…いいのか?友達にいろいろ突っ込まれるぞ絶対」 「昨日の時点で突っ込まれてたから今更だよ」 「ったく…」 どうせこうなったら聞きはしない。修兵は仕方なく蓮華の傷に昨日より少し小さなガーゼを当ててやった。そして蓮華の治療が終わってすぐ、修兵たちは学校へ向かった。 「んじゃまたお昼ね」 「おう、んじゃな」 修兵は蓮華と別れて教室に入る。ここへ来るまでの間もやはり蓮華はみんなの視線を集めてしまっていたが、本人はまったく気にしていない様子で、修兵ばかりが心配する始末である。そして教室で恋次といつも通りくだらない話をする。 「今日も蓮華と登校か?」 「だったらなんだよ」 「ほんっと仲いいなお前ら、さっさとひっつけよ」 「そしたら苦労はしねぇよ」 「蓮華だって毎日お前ン家に通ってんだぜ?さっさと一緒に暮らせってー」 「…昨日」 「あ?」 「昨日から一緒に住んでる」 「……は?マジか?」 修兵は何も言わない。それが訳ありだというのは恋次にはすぐに分かった。修兵の親友である恋次も蓮華の家庭事情を知っている。 「…まあ、にとってはそっちの方が良かったんじゃねぇか?」 「…そうか?」 「もう痛い思いしなくて済むんだぜ?」 「それはいいとして、お前俺の心配はナシかよ、性的な意味で」 「そればっかりはどうしようもねぇだろーが」 「だよなー」 「どうせ言いだしっぺはお前だろ」 「悪ぃかよ」 「別に悪ぃとは言ってねぇよ。ただちゃんと責任は持てよっつってんだ」 「分かってるよ。あのバカは俺が守るから」 「へっ、言うねぇ王子様」 「うるせー」 「蓮華の口調移ってんぞ」 「…け、いいんだよ」 ニヤニヤ笑う恋次を見て、修兵は顔が赤くなるのを誤魔化した。 12 |