梅雨といっても雨が降らないと日中は夏のよう、いいや、それ以上に暑かった。夜になると窓から風の通る日はいくらかマシだが、それがないとむっとした空気が部屋のなかに溜まって息をするのもつらいくらいだ。今日は、後者だ。つまりとても暑い。 寝室にひとつしかないベッドの上で黒子はもぞもぞと寝返りを繰り返していた。隣には青峰がいる。 何度目か青峰に背を向けるようにすると、そっちから声がした。 「寝れねえのかよ、テツ」 青峰の声は低く、少しかすれていた。 「はい、ちょっと……」 黒子は乳白色のタオルケットを引きずってごそりと青峰のほうに身体を向けた。青峰も身体を横にしてずっと黒子を見ていたらしく、暗いなかでも目がばちっと合うのがわかる。 「まあ、あちいよな」 「はい、暑いです」 ふたりで同じことを囁いて、くつくつと笑った。 そのうちに青峰が、おでこや頬にちゅ、ちゅ、といくつもキスをしてくる。黒子が「くすぐったいです」と言って胸を押し返すのもかまわず、青峰はキスを止めない。 「ちょっとしょっぺえな」 「汗かいてますから、汚いですよ」 「バカ、汚いもんか」 そう言って青峰はますます黒子に唇を落としはじめる。口を舌でまさぐったあと汗で少し湿った首筋をべろりと舐め、寝間着のなかに手を突っこみながら浮いた鎖骨をかりっと噛んだ。 「あっ、あ、青峰くん……っ」 「テツ、セックスしたい」 耳の穴にさっきの低くて少しかすれた青峰の誘惑が流しこまれる。いっしょに乳首をつままれ、黒子は、ひ、とみじかく息をのんだ。 「やっ、汗、汚いですからっ」 「なあ、テツ」 太ももで股間を押されると、黒子はもう声が我慢できなくなった。青峰の懸命すぎる愛撫に誘われるまま、身体を割り開いていった。 セックスし終わると、黒子はベッドのなかでぐったりした。何度も射精させられたのとされたのと、暑いのと。終わったあとも青峰は腕に黒子を抱き寄せて唇にずっとキスをしていた。ふとそれが止む。 「大丈夫かよ、テツ?」 「もう動けません」 「悪かったな」 青峰は素直に謝ると、呆気なく身体を離してベッドから降りていってしまう。くっついているのは暑いけれど、それはそれで少し寂しい気がする。 黒子は額からじっとり滲む汗をぬぐうように枕に顔をつっぷして、青峰の動く音だけを聞いた。何やらクローゼットをがさがさ漁っているらしい。 それはけっこうな大きさがあって、ふたり分の着替えはもちろん季節柄使用するあれやこれやもいろいろ収納されている。 抱き合った直後のいま何の用があっていきなりそんなところを探りはじめたのか黒子が不思議に思っていると、「お、あったあった」と青峰のいたずらに弾む声が聞こえた。 ガタンッと少し乱暴な音が鳴る、また沈黙。そして、ピィッと機械音がした途端に黒子の足元から微かな風が吹いてきた。 「何ですか?」 枕から顔をあげて見れば、扇風機がブーンブーンと首を振りながら涼しい風を生み出していた。 「どうだ、涼しいか、テツ」 青峰の声はなぜか楽しそうだった。 「涼しいですけど、わざわざ扇風機を出さなくてもエアコンでいいんじゃ……」 「そうやって去年、夜通しエアコンつけて寝た次の日に風邪ひいたのはどこのどいつだよ」 黒子がそれ以上何も言えないところを見て意地悪く笑った青峰は、扇風機と黒子を残して寝室を出ていく。ともすればすぐに戻ってきて持ってきた濡れタオルで黒子の身体を慣れた手つきで綺麗にした。下着と寝間着も新しいのにしてやってから自分は寝間着の下だけ穿いてベッドに潜りこめば、また黒子を腕のなかに抱いて大きく寝そべる。ふわあっとやさしい風が足を撫でる。 「こりゃ快適だな」 そう言いながら青峰は欠伸をする。黒子も青峰の胸にうっとりもたれて、もう瞼を閉じかけていた。 規則的な風の音に誘われてふたり身を寄せ合って眠りについた。 2016.06.22(急いで夏を掴みに行こう) |