テキスト | ナノ

 ベッドの上へ少し乱暴に連れていかれた氷室は、あっという間に火神に服を剥ぎ取られる。肘をついてようやく上体だけ起こし、苦く笑う氷室の視線の先には、白い炎が静かに燃えるように夜の暗闇のなかでぎらつく火神の瞳があった。
 ふだん氷室には何かと遠慮がちの火神だが、たったひとつだけうちに秘めたる狂気を晒す条件があった。バスケの試合があったとき。それもキセキの世代などの強敵と本気で戦い終わったあとのことだ。火神は特別に良い試合をしたあとほど、自分のうちに飼う野生を抑えきれず、氷室との情事へぶつけるほか考えることができなかった。
 今夜はきっとそうなることを、氷室は昼間に彼らの試合を観戦したときからおおよそ予感していた。上から見ているだけだった氷室にもコートの熱がひしひしと伝わっていたのだから。
 ぎしりとベッドが鳴る。氷室の腹の上に跨る火神は、ふうふうと口の端から荒い息を漏らしている。瞳はさっきよりきらめく。身体のなかで暴れる野生を制御できないで苦しんでいるのだろう、彼の瞳が輝くのは、きっと涙に濡らされるからに違いない。
 氷室はそれを確かめるために火神の頬を片手で支え、顔を近く引き寄せた。触れた膚は熱い。火神はやはり氷室の思ったとおりの顔をしていて、氷室は目尻を下げて笑った。
「つらいんだろう、タイガ? いいんだよ」
「……タツヤ」
「いいんだ、お前の全部をオレにぶつけて」
 その瞬間、火神は噛みつくように氷室の唇に口づけた。とうとう待ち切れずに捕らえた餌を貪り食う獣だ。はっはっと荒い息を上げる火神に同調して、氷室は火神のなかの野生に裸の身体を差し出した。


2016.06.21(叩いて刻みつけて壊して)