紫原は中学入学時から身長がもう百八十六センチもあったものだから、それからどんどん成長して、今では二百センチを超えた。ざわざわ鳴る人ごみにいてもひょいっと簡単にまわりを見まわせるから、紫原は、のんびりした性格もあって、いつも気の抜けてたわんだ糸のように背中を丸めていた。緑間なんかは「ちゃんと背筋を伸ばせ、シャキッとしろ、みっともないのだよ」とよく言っていたが、紫原はうるさいなあ、と思いながら聞いたものだ。 そういう彼もピンと背を張るときはある。それは紫原がこの世でいちばん好いている黒子と立って向き合うときだ。 紫原が唇へのキスを、小さい子のように駄々をこねてしつこくねだると、黒子はふうとひと息ついてそれを叶えようとする。しかし、立ったままの状態では、身長が百六十八センチの黒子に紫原の唇ははるか遠かった。黒子がつま先をクッとあげて、手も紫原にしがみつくようにして、ふるふるしながらがんばるものだから、そういうときに紫原はいたずらしてやりたくなるのだ。いつもやる気のない背中をこのときばかりはにょきっと伸ばして、黒子のまだ届きそうもない顔をたくさん見つめる。 「紫原くん、できませんよ」 「そんなこと言ってないで、ほら、黒ちん」 紫原は自分のためにがんばる黒子の顔ならとても好きだから、いつまでも眺めていたい気持ちになった。あともう少ししたら、首をちょいっと傾けて、黒子の唇をちゅうと吸うことにしよう。 2016.06.20(おおきな木のしたの貴方) |