「うわあぁあ……っ!」 突然の叫び声に、飛び起きた。部屋の中は暗く、まだ夜中だ。眠りから目覚める不快さを感じることもできないまま、オレは慌てて手元のスタンドライトを点した。隣を見ると、丸まって小さくなったタツヤの背中が目に映った。上体を起こして両手で顔を覆い、肩を大げさに揺らして呼吸を忙しなく繰り返している。 「どうしたんだよ、タツヤ?」 異常なくらい体を小刻みに震わせるタツヤを心配して、オレも体を起こす。最近、買ったばっかりのダブルベッドがギシリと軋んだ。 「あ、ああ……はっ、あ……」 タツヤはしばらくそうやって何か我慢するような呻き声を上げたあと、すぐに落ち着いて、オレを見て笑った。 「ごめん、タイガ。何でもないんだ」 「そんな顔で言われても説得力ないっつうの」 「いいや、本当に、夢見が悪かっただけだよ」 そのときタツヤの前髪が揺れた。オレは手を伸ばして、指の先で慎重になってそれを除けた。いつも髪の下に隠れているタツヤの左目が現れる。 「ひとりで泣くなよタツヤ」 「可笑しいことを言うんだな、タイガ。涙なんか出てないじゃないか。見えるだろう?」 「ああ、見えるさ。オレにはお前が泣いてるように見えるよ」 オレはタツヤの両目を見つめながら、はっきりそう言った。オレは、知ってるんだ。本当に悲しいとき、タツヤはその悲しみを胸の内にそっと仕舞い込んで前髪に隠れた左目だけで静かに泣くことを。 黙って瞳の中をじっと覗き込んでいたら、とうとうタツヤはオレの手を掴んでやんわりおろした。左目が、黒いカーテンが引かれるように、また前髪に隠される。 「とにかく、急に起こしてすまなかったな」 「いまさらそんなの気にする仲じゃねえよ」 「そう言ってもらえると嬉しいよ。 Good night,Taiga.Sweet dream.」 その呟きを最後に、ふたりでベッドに入り直す。間もなく暗闇の中に静寂が戻ってきた。 誰かと一緒に暮らす生活を始めても、ひとりでいた頃の癖は簡単に抜けない。今は何か悲しみを抱えてそれとひとりで戦っているタツヤも、これから過ごす多くの時間に癒されるのだろうか。だったらそのときが来るまで、オレはタツヤのそばにいてそれを見守っていたい。 滑らかなキルトの下、こっそり忍ばせた手でタツヤの手を握る。一瞬だけ竦んですぐに弱々しく握り返されたのを感じて、オレは目を閉じた。 2014.09.30(いつかオレに教えてくれ) |