テキスト | ナノ

 同居してもう長い今、ふだん穏やかな関係の火神と氷室もちょっとした言い合いはたびたび起きる。それが激しくなると互いをきつい英語で捲し立て、ついには火神の左頬へ、氷室の右拳がヒットする。
「悪い、タイガ」
 すべてが終息すると、氷室は火神の傷を慣れた様子で手当てした。消毒液を垂らしたガーゼを血の滲む口元につける。
「気にすんなよ」
 火神は動かしづらそうに、口をもごもごさせた。
「いつも気づいたらエキサイトしちゃうんだよ」
「ああ、知ってる、タツヤのことだから」
 火神の頭に過去、最愛の男に殴られた記憶が浮かぶ。一番古いのはアメリカの空の下で。
 氷室は己の正義に反したときだけ相手が誰でも、例え火神にでも拳を奮う。誠実な男だ。
「オレはお前のそんなとこも込みで惚れてるんだからしょうがねえさ」


2016.06.14(グーチョキパーの、グー)