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※OVA第75.5Q派生


 黒子のバースデイパーティーを終え、興奮冷めやらぬうちに皆が帰るなか、氷室は火神の部屋に残っていた。そのまま泊まる予定だった。外泊の許可はあらかじめ部に取ってある。
 ようやく落ち着いて就寝の準備を整えた直後だ。氷室は床に敷いた来客用の布団へ寝転び、天井を眺めながら言った。
「安心したよ」
 ちょうどベッドへ横になりかけていた火神は、下にいる氷室に、何の気なしに答える。
「何が?」
「うん、タイガの部屋にエロ本がなくて」
「なっ!」
 油断したところへ、氷室の口から聞き捨てならない言葉が飛び出した。それはおそらく、先ほど行われたパーティーからきたものだった。黒子にくっついて火神の部屋へ押し入った青峰が、面白がって、隙あらば男のバイブルをあちこち探し回ったのを、氷室はばっちり聞いていたのだ。
 さいわい、火神は普段からそういうものに縁遠い男子だった。しかし、彼は心のうちで、ほとんど青峰を呪った。そうしてひとしきり心のうちの青峰に恨み言をぶつくさ言ったあと、火神は氷室へ恐る恐る口を開く。
「もしも、だぞ。オレがその、そういうの持ってたらタツヤはどうしてたんだよ」
「うーん、そうだなあ」
 氷室はまだ天井を見ながら、悩むそぶりをして、やがて火神のほうへ目をやってふわりと微笑んだ。
「一発か二発くらいは殴ってたかも」
 綺麗に笑んだところで、言っていることはずいぶん物騒だ。火神は、過去、氷室から受けた頬への強打の感覚を思い出しては、がっくり肩を落とした。
「そうかよ……」
「まあそれは冗談として」
 そこで言葉を切った氷室は、せっかく寝転んでいた布団から起き出す。そして火神のベッドへゆらりと近づく。
「タツヤ?」
 火神の声音は焦っていた。ベッドをぎしりと軋ませて、氷室が膝から上がり込んでくる。そのまま、バスケで鍛え抜かれた火神の腹の上へ馬乗りする。その眼はまるで、獲物を逃がすまいと追い詰める獣のようだ。
「もしも本当にあったとしたら、すぐにでもゴミ箱へシュートして、お前を二度とオレ以外で抜けなくしてやる」
 氷室が躊躇いなく自らのTシャツを捲り上げる。現れた肌は、暗闇のなかでその白さを際立たせた。
「お、おい。タツ、んっ」
 たちまち、火神は唇を塞がれる。深まるキスに、自然と氷室の唾液が咥内へ流れ込み、いったん唇が離れるとき、ふたりの舌にだらしなく糸が引いた。火神に覆いかぶさる氷室は、舌を突き出しながら、挑戦的な目をする。やがて、火神の耳元でそっと言葉を囁いた。
「手加減するなよ、タイガ」
 それは耳に痛い話だ。


2016.06.04(青春の一ページを破って)