※OVA第75.5Q派生 冬の夜は風が冷たいぶん、空気が澄んでいる。黒子は鼻先にそういう透明な冬を感じ、星の明るい空を見た。隣には、緑間が歩いている。 今日は黒子テツヤの誕生日だった。昼間はキセキの世代が集まり、何年ぶりか、同じコートでバスケをした。それは、彼らにとったら奇跡のような時間だった。 夕方からは黒子に関係深い者たちを招いての誕生会が催され、いま、ふたりはその帰り道にいる。 「ありがとうございました」 黒子がまだ星を見ながら口を開く。真っ直ぐに暗がりの道の先ばかり見据えていた緑間は、黒子を眼鏡の端から横目でちらと見下ろした。 「何のことなのだよ」 「プレゼントですよ」 「プレゼント?」 「キーホルダーです、ヒヨコの」 「……ああ」 緑間は普段から深い眉間の皺を更に濃くして、再び黒子から視線を外す。それと交代するように、黒子が緑間を見て微笑む。その気配を感じて緑間は肩をたじろがせた。 「言ったはずだ、あれは今日の水瓶座のラッキーアイテムなのだよ。べつにオレはお前の誕生日プレゼントとしてやったわけじゃない」 「そうでしたか。ただ、昨日の放課後、お店で長い時間かけて探して用意してくれたみたいなので、お礼が言いたかっただけなんです」 「なっ、いったいどこでそれを」 「さっきのパーティーで高尾くんから聞きました。そのくせ自分のラッキーアイテムは適当に買いに行かせるんだぜ、笑えるだろ、とも言ってましたね」 「高尾……!」 静かだった空気が、緑間の熱く息巻いた声に震えて、慌てて飛び起きるようだった。緑間は辺りを不躾に乱してしまった自分の声やら、相棒から思い人へ暴露された過去の自分の事やら、すべてのことが恥ずかしく、気まずく、嫌になり、いつに増して唇を固く閉ざした。 静寂がふたりのすぐそこに戻る。いつも、緑間と黒子の間に、会話は多くなかった。その落ち着いた情調が黒子は好きだったのだけど、今日は、その流れを覆う薄い膜を破かないようにひとつひとつ丁寧に剥がしていく。 「大切にします、ずっと」 顔を向こうにやったまま、緑間が小さく鼻を鳴らすのが聞こえる。顔が見えずとも言葉にせずとも、彼が怒っているのでないことを黒子は知っている。それが、言葉少ななふたりの心が深く繋がる証だ。 黒子はもう黙って緑間にそっと寄り添うと、後ろから手を取った。バスケで鍛えられた筋肉のしなやかな腕が、少し驚いたように、ぴくりと反応する。けれどもそれはほんの一瞬で、手は強く握られた。 2016.06.11(繋いだ手は夜の光になる) |