テキスト | ナノ

 最近になってなんだけど、よく、オレと黒ちんと黄瀬ちんとで休み時間に集まってお菓子を食べるようになった。誰が何を言ったわけじゃないけど、いつの間にかそうなっていた。きっかけはオレが黒ちんにお菓子を分けてあげてたところに黄瀬ちんが勝手に乱入してきたことだったような気がする。まあべつに、お菓子が食べれるなら何でもいいや。
 いまはオレと黄瀬ちんのクラスに黒ちんが来ていて、ついでに峰ちんもいる。黒ちんに用があって、そのまま着いてきたらしい。休み時間で席から離れた人の椅子を、適当に引っ張って座っている。
 オレの後ろの席の黄瀬ちんは、さっそくお菓子の袋をひとつ開けていた。何でも、期間限定の味らしい。期間限定っていうだけで食欲そそるよね。
「今朝コンビニで見つけたばっかりなんスよ。なんかオレ、昔から目新しいものにはついつい手を出したくなる性格みたいで」
 袋をパーティー開けしながら、黄瀬ちんがひとりでペラペラとしゃべる。
「誰も聞いてねえって」
 峰ちんが言う。正論。
「もう、ひどいっスよ青峰っち! そんなこと言う人にはお菓子あげないっスよお?」
「つかそれホントに美味いのかよ」
「大丈夫! オレの鼻に狂いはないっス」
「はっ、まるっきり犬だな、黄瀬」
「何をぅ!?」
 峰ちんと黄瀬ちんが口で押し問答してる間にも、オレは期間限定のそれを味わっていた。オレの隣に座る黒ちんもひとつ摘まんで、小さく開けた口に押し込める。ぱくり、もぐもぐ。
 しばらくすると、黒ちんの頬が柔らかく溶ける。春に咲くタンポポがいつの間にか綿毛になっちゃったみたい。
 黒ちんの変化を見ているのが無性に面白くって、お菓子に手を伸ばしながら眺めていたら、その綿毛の顔がふとオレのほうを向く。
「美味しいですね、紫原くん」
 オレは黒ちんに目をやったまま、摘まみかけていたお菓子を口のなかに放り入れて、奥歯で噛み砕いた。何だか、最初に食べたときと味が違うような。そんなのはたぶん気のせいなんだろうけど、うん、オレはこっちのほうが好きだ。
「まあまあ、良いんじゃない」
 答えながら黒ちんを見て、まだあれこれと言い合う峰ちんと黄瀬ちんを見て、また、黒ちんを見る。
 いつもひとりで食べるお菓子だって充分美味しいけど、たまにはこんなのでも良いかもしれないね。


2016.05.26(団子より花見の気分なの)