テキスト | ナノ

 緑間のセックスは優し過ぎる、と黒子は思う。まるで世界に唯一しかない繊細で美しい飴細工の、形を壊さぬように、指先で、舌で、ひとつひとつ丁寧に溶かしていく、まさにその様子だ。
 今日はもうそれだけかと思うほど、えんえんと愛撫を繰り返す。背を撫で、腹に触れ、乳首と性器もゆるく嫐った後、唇に口づけてくる。
 最初は外側を少しだけ啄み、食む。それは次第に深い繋がりになり、内部に厚い舌が侵入しては、すべてをいとおしむように擦り上げる。
「あうっ、ん」
 お互いに舌を絡める濃厚な口づけをしながら、緑間の指が黒子の秘孔を軽くなぞった。異物を受け入れることにすっかり慣れてしまったそこは、自ずと誘うように男の指を飲み込んでいく。
「ん、んっ、はあっ」
 指はさらに深みを目指して、まとわりついてくる肉壁をほぐす。そうする内に、黒子の一番の弱みを微かに掠めた。わずかな感覚ではあったが、今や全身のあらゆる神経が過敏になっている黒子は堪らなく声を上げる。
「ああぁ……っ」
 瞬間、緑間の指が強張って動きを止める。黒子の中で息を潜めるようにひたと静かになった。
 黒子は明滅する視界をようやく取り戻し、自身の上に覆い被さる人の表情を見つける。緑間の瞳は不安げな色を宿して黒子を覗いていた。眉間に皺を寄せて、口を固く引き結んで。気に入りのおもちゃを落として壊してしまった後の子どものよう。
 黒子は彼に向けて、ふと微笑んだ。
「キミは優しすぎるんですよ」
「何のことなのだよ」
「もっと強くしても、ボクは構わないのに」
「……ふん」
 愛撫がゆるゆると再開される。秘孔に埋まる指をそっと増やされると、黒子の息はますます上がる。
 けれど、苦しいわけではない。ちゃんと気持ちがいいから、緑間が丹念に愛情を注いでくれるのが分かるから、黒子は反応するのだ。
 黒子というひとりの人間をいい加減にせず、きちんと考えてくれるその人が、大切だと思う。手離したくない。だから、黒子は言う。
「好きです、緑間くん」
 両の手で彼の両頬を包み込んで、目を見ながら伝えると、緑間は耳上まで真っ赤にして黒子の秘孔から指を引き抜いた。そのまま、表情を見せまいと、頑なに黒子の肩口に顔を付ける。
「あんまり煽るな。止まらなくなるのだよ」
 狼狽えおののくような、低く悩ましい声だった。
 引き出された緑間の性器は熱を帯び、堪らず膨らんでいる。それで貫かれる。少なからず痛みはあるだろうが、それと同じくらいの快感を得るだろう。
 黒子は今から与えられる無上の悦びを思いながら緑間の首に腕を回し、そっと目を閉じた。


2016.05.19(愛とはどのようなものか)