しんと澄んだ星月夜、ひやりと心地良い微風が黒子の頬を撫でる。小さな公園のなかで肩を寄せ合うように立つ木々が少しざわめいたけれど、寒々しさを感じないのは、橙色の明かりを柔らかく点す街灯のちょうど真下にいるからだろうか。それとも側にいる人のおかげだろうかと考え、黒子はブランコに腰かける赤司をそうっと見下ろした。目が合うと、赤司は軽く笑う。 「やっぱり落ち着くな、お前とふたりになると」 「そうなんですか?」 「黒子は違うのか?」 「いいえ、いつだってキミと同じです」 その答えにひとつ頷いた赤司は、深く息を吐く。 「実はさっきの話中、ずっと緊張していたんだ」 赤司の言うそれは、Jabberwockとの試合に向ける練習時にあった。もしも試合中、いまの赤司が窮する局面があれば、赤司のなかにあるもうひとつの人格に交代すると。 皆にとって良い思い出のものでない。そう思っていたから、赤司は意を決して話をした。にもかかわらずチームメイトときたら何と言うか。━━なんだそんなことかと、口をそろえて言ってのけたのだ。 「オレとあいつは考え方が異なるから、お前たちにはずいぶんと容赦のないことを言った。黒子、お前さえ惑わし深く傷つけたと思っている」 黒子は赤司の言うことを聞きながら、目を閉じて過去を想起する。 確かに涙した。彼の言葉から立ち上がれなくなった日々もあった。 けれど、それはもう、過去のことだ。 黒子は赤司を信じている。バスケをやっていて良かったと、お前に出会えて良かったと泣いた赤司を強く信じている。 だから黒子は、何度でも言ってやる。 「赤司くんは赤司くんです。何も変わりませんよ」 大好きですと。 ブランコがギイッと軋む。立ち上がった赤司が、黒子と向き合う。乗り手のなくなったブランコはゆらゆらと揺れた。 「ああ、━━……ああ、ありがとう。黒子」 噛みしめるように愛しい名前を口にした赤司は、そのひとの髪に指を寄せる。輪郭をそっとなぞる。細い顎をゆるく持ち上げる。 「ん……」 口づける。たった、一度。けれどそれだけで、ふたりが熱を分かち合うには充分だった。 やがて、どちらともなく、ふふっ、と笑みを漏らした。唇を近く寄せたまま赤司が言う。 「さっき、オレとあいつは考え方が異なっていると言ったが、ひとつだけ共通することがある」 「はい」 もう一度、口が重なり合う。今度は少し深く。 「好きだよ、黒子」 2016.05.10(あるがまま、大地へ帰る) |