テキスト | ナノ

 遊園地のちょうど真ん中ぐらいにそびえ立つ観覧車から外を眺める。空は端から端まで夕日に照らされて、何個も連なった小さな箱は順番に赤い海へ沈んでいくようにゆっくり動いた。
 正面に目を向けると、オレの向かい側にはテツが静かに座っている。椅子の端に体を寄せて、窓から外の景色を橙色の地平線のその先まで見通そうとするように見つめた。本当のとこ、どこを見てるかなんて知らねえけど。
 何週間か前、母親からこの遊園地の割引券を無理に押しつけられた。使わないともったいない、さつきと行けばいいなんて言うから、行かねえよってすぐさま押し戻した。けれど言い合いで母親に勝てるわけもなくて、割引券は結局オレの物になった。それを憂さ晴らしにテツに喋ったら「まだそれ、残ってますか?」って予想しない言葉が返ってきた。
 それから今、オレたちはここを出る最後にこの観覧車に乗っている。ふとひとつ前の箱の中に、父親と母親と小さいガキ二人が笑ってるのが見えた。それもやがて視界から消えていく。景色が開ける。もうてっぺんなのか。
 テツはまだ、外のどこか遠くを見つめている。


2015.12.06(子どもの頃の景色と未来)