火神は朝起きると、服を着替えるより、顔を洗うより、一番にリングを首にかける。それは子どものころ、アメリカで氷室に貰ったときからの習慣だ。意図せず道を分かたれて離れ離れになった間も、毎日欠かさずに火神はそれを続けた。 いま、火神の目の前で同じことが起こっている。隣で寝起きの氷室が首にリングを引っかけている。 昨晩、抱き合ったあと、ふたりで眠りについたときのまま惜しげもなく晒された美しい裸の上に、窓から差す朝日で眩しく光るリング。 火神は目を覚ましてから氷室の一連の動作をベッドに横たわりながら、眺めていた。すると、それに気づいた氷室が口を開く。 「何か楽しい夢でも見たのか、タイガ」 「は、何で?」 「顔がにやついてるよ」 火神が慌てて口元を覆うと、氷室は肩を揺らして笑った。氷室に並んで上体を起こした火神はガシガシと自分の頭を無造作に掻き、すぐそこにあるサイドテーブルへ手を伸ばす。 「同じだなって思っただけだよ」 チャリ、と金属の擦れ合う音を立て、氷室のつけたものと同じ形のリングが、火神の指に触れた。ひんやり冷たいそれは、彼の体温と混ざっていつの間にか溶け合っていくのだ。 2016.02.21(似合いの指輪を見つけて) |