テキスト | ナノ

「意外と泣き虫なんですよね」
 テツがオレを見て、言った。たぶんコイツをよく知ってるヤツじゃないとわかんねえくらい、ほんのすこし笑っている。
「ウィンターカップがすべて終わったあとに桃井さんから聞きました。青峰くんがボクたちの試合を見ていて泣いたこと。ボクがキミを泣かせてしまったのは、これで二回、いえ、三回目ですか?」
「泣かせたって大げさだろ」
「でもそうでしょう?」
「……覚えてねえ」
 ほんとうはぜんぶ覚えている。気恥ずかしくて嘘をついた。テツは今度こそクスクスと息を零しながら笑った。
「ボクはずっと覚えています、これからも」
 テツが何か大事な宝でも仕舞い込むように、目を閉じ、心臓のあたりでぎゅっと拳を握る。オレはそれを、黙って見ていたけれど、やがて一度瞬きをすると、テツはもう目を開けて、オレにまた真っ直ぐすぎる目を向けた。
「ボクはキミを泣かせてしまった責任を取ります」
「へえ?」
「だから青峰くん、それに付き合ってくださいね」
 何だ、強制かよ。それともオレの答えなんか聞かなくったって分かるってか? テツのそういうところが腹立つようで、そういうコイツだからこそ、オレは一緒にいてやりたいって思うんだろうな。


2015.09.21(お前のために泣いてやる)