テキスト | ナノ

「こんなこと言ったら格好悪いかもしれないけど、黒子っちには知っていてほしいから言うね」
 力強い腕に抱き締められながら、黒子は耳の裏で黄瀬の声を聞いた。
「オレは黒子っちが好きっス。大好き。そんな言葉じゃ足りないけど、オレ、馬鹿だから、これ以上どう言えばいいのかわからない。それくらい好き」
 真っ直ぐな黄瀬の言葉はその形のまま黒子の耳朶をゆるく撫でては、ひとつひとつ聴覚に擦り込まれていく。柔らかい声音は、目を閉じると、すごく心地いい。
「だからずっと一緒にいてほしいっス。黒子っちのしてほしいこと全部オレがしてあげる。黒子っちがイヤがることは絶対にしない。だから側にいて」
 時々、黄瀬は夢を見るのだと言った。黒子が自分の目の前から消えてしまう夢。それを見ると、夢か現かもわからないまま、不安にかられ、恐怖する。そして黒子を抱き締め、それは黒子が息苦しさを感じるくらいに抱き締め、終わらない愛の言葉を囁き続ける。
 どうしてそんな夢なんかに脅える必要があるのでしょう、と黒子は思う。顔が良くって、あの瞳なんていつも宝石みたいに、いや、太陽みたいに、いいや、涙が溢れるように、キラキラして、確かに頭はあんまり良くなかったけれど、そこがまた彼の個性で、何よりバスケが強かった。
 自信の塊のような人間のくせをして、黒子の前では弱さを見せる。いっそ手元に置くことをやめてしまえばいいのに、考えることをしない幼児のように手放さなかった。
 黒子はそういう黄瀬を、愛おしさと、少しの優越感を持って抱き締め返す。すぐそこにある金髪に鼻の先をうめれば、彼の匂いが濃くした。
 慰めるように背中をさすっていると、ふいに身体が離れて、キスをされた。触れるだけのキスは、やがて荒々しく黒子の唇を食らって、噛みついて、それを合図に泣いていた幼児は獣へと成り変わる。


2015.08.03(できそこないの愛をくれ)