テキスト | ナノ

「覚えているか?」
 剥き出しになった黒子のほっそりした背中に口づけながら、緑間は言った。
「んあっ、あ、なんです、ひッ」
 いまなおアナルを猛ったペニスに押し拓かれ、胎内の粘膜を擦られている黒子の耳に、緑間の言葉はよっぽど遠い。はくはくと必死に酸素を求める、その姿に緑間はやんわりと目を細めて息を吐いた。

 夕暮れどき。いつものコンビニ前。バスケでいちばんかっこいいシュートは、と始めたのは、果たして誰だったか。緑間はやはり迷うことなく、遠くから決めてこそのシュートだと言った。三点もらえるのだからと主張したときに、「子どもですか」そう言って、感情の見えない目を緑間に向けたのが黒子だった。
「シンプルだからこそ真理なのだよ。いずれオレが証明してやろう」
 緑間が得意気に言い切るのに、黒子は夕焼けで潤んだ空色の瞳を細めてそっと笑った。

 中学、高校と長い時間を経た現在になって、緑間は思う。あのとき、自分で言った『いずれ』とはいつのことを指していたのかと。
 あのころは何の疑いもなく、緑間はキセキの世代と呼ばれるチームメイトとその影とのバスケが永遠につづくことを予感していた。けれど、すぐに永遠などないことを、知らされた。
 影が、黒子が、姿を消した。それを知ったとき、突然の喪失感に、頭を鈍器で殴られた気分だった。緑間はいまでもはっきりと思い出すことができる。
 証明してやろうと明確に約束したわけではない。けれど果たせなかったあの夕暮れの言葉は、緑間の心を重く痛ませ、執着させた。

 それからそれぞれが違う場所でまた歩み、再会して、敵としてバスケで戦った。そのすべてが終わると、緑間は黒子に自分のほんものの想いを告げた。影はいままた、緑間のすぐ近くに存在する。まだ幼かった自分が手放した、『いずれ』という確証のない時間がまた息を吹き返して手の中に戻ってきた。

 緑間は黒子を抱きながらそうしたことを思い起こしていた。小さな唇から吐き出される喘ぎ、汗ばむ肌から伝わる体温、とろけそうなくらい熱くなった胎内、ひとつひとつの微妙な挙動から、黒子をじかに感じる。緑間は、繋がったまま細い身体を抱き潰してしまわないように慎重になって黒子の耳元へ唇を寄せた。
「ずっと側にいろ、黒子」
「う、あ、んんっ、はっ、みどりま、くっ、あっ」
 黒子がすがりつくように緑間の首裏に腕を回す。緑間は広い胸板の中へ黒子を閉じ込めるように強く抱きしめ、激しくのた打つ渦潮を掻きわけて進むように揺さぶりながらまた言った。
「もう離さないのだよ」
 今度は『いずれ』なんて不確かな言葉には頼らない。自分の信じる永遠がつづく限り、緑間は黒子との新しい約束を貫き通していく。


2015.07.24(永遠の約束をくださいな)