「テツは、いい嫁になるな」 部活の休憩時間。体育館の片隅、スポーツドリンクを飲み、タオルでたっぷり汗を拭いてから、青峰が言った。 「とうとつですね」 「いやさ。さっき、オメエ、オレのぶんまでタオルとドリンク貰っといてくれただろ」 「ええ、休憩の号令がかかってもいつまでもボール触るのをやめられなかったキミの代わりに、桃井さんからたしかに預かりました。彼女、まだやることがあるのにこれでは渡せないと悩んでいたようでしたので」 黒子が青峰をじいっと見上げると、彼は、いちおう、ばつの悪そうに視線を泳がせた。 「……悪かったよ」 「ボクはべつにかまいませんけれど、桃井さんにはあとでひと言かけてあげてくださいね」 「いーんだよ、アイツは」 「またそんなことを言って……」 どうにも青峰は幼なじみである彼女に対してムキになりすぎる。ひとりっ子で、昔からそういう存在が近くにいなかった黒子がそんな彼らの関係を微笑ましくも、呆れながらいたら、青峰は、そんなことよりと話をもとに戻した。 「とにかくそういうとこがよ、いい嫁っぽい」 「気が利くと言うことでしょうか?」 「ああー、そうなのかもな」 「気が利くと言えば」 黄瀬くんもその部類ではないですか。黒子は、自分たちとは違う場所で緑間や紫原と話している黄瀬を目で追いながら言った。ひと際、華やかな空気を周りにかもし出す彼はときどきものすごい大人っぽさを発揮する。良くも悪くも周囲の空気が読めすぎてしまうのだ。けれども青峰はそうは思わなかったらしい。黒子と同じ方を一瞥して、すぐに顔を横に振った。 「黄瀬が嫁になるとか想像するだけでダメだわ」 「青峰くんが黄瀬くんのどういう状態を想像したのかはわかりませんけれど、それでどうしてボクが大丈夫なのかが不思議です。ボクも同じでしょう」 「はああっ? テツとアイツとじゃ、まったく、ぜんぜん、違えだろーが」 「そういうものですか」 「そういうもんだ」 腕を組んで自信満々に言い放つ青峰の様子が可笑しくて、黒子はクスッと小さく笑った。対して、青峰はニッと大きく笑った。 2015.05.09(純白のドレスに包まれて) |