テキスト | ナノ

 くああっ、とあくびをする。部活だからって、何でドッピーカンな昼間っから外を走らなくちゃいけねえんだよ。マジでだりーわ。視界のずいぶん先には、虹村サンと赤司を筆頭に、うかうかと張りきって、足を動かす一軍のヤツら。いかにも青春してますって感じで、オレにはとうてい真似できねえな。虹村サンさえいなけりゃあサボってるものを、ついさっきあの人から拳骨をくらった脳天がまだ痛え。
 眠いながらもこのくらいのランニングは屁でもない。オレは、タンッタンッと、一定のリズムを刻みながらぼんやりと走る。そうしていると周りに流れる音が無意識のうちに、耳に入ってくる。オレが刻むリズムの合間に、ぜえっはあっと弱々しく荒らぐ声が背後から聞こえる。チラッと振り返れば、予想通りと言うか、正体は黒子テツヤだった。いまにも倒れそうなくらい身体が前に傾いている。こいつマジでやべえんじゃねえの? オレは少し走るペースを落としてテツヤに近づくと、咳払いをした。
「おーい、テツヤ」
「……は、はっ、……ッ」
 返事がない。
「おい聞いてんのかよ、この野郎」
「な、なんでっ、すか、灰崎くん」
 秋の始めに飛ぶ蚊みたいな声がようやく返ってきた。こんな蚊がいたら、すぐにイチコロだな。
「大丈夫かよお前?」
「は、いっ、だいじょ、ぶで、うぷっ」
 いやいや、ぜんぜん大丈夫に聞こえねえよ。言ってる間にも、吐きそうになってるじゃねえか。
 こいつのバスケを初めて見たとき、ふつうじゃないそれを面白いと思った。あとテツヤがいると、相手抜くのが楽になるしな。でもあいかわらず体力はないし、ドライブもシュートもド下手くそだし、ヘボいという言葉につきる。
 それでもテツヤは、走るのをやめない。何回倒れたって、馬鹿みたいにゲロ吐いたって、バスケを諦めない。もしオレ自身がテツヤの立場だったらって考えるだけでもげんなりするし、一瞬想像した必死コいてる自分の姿に鳥肌が立つ。いや、だってキモイだろ、真面目なオレ。でも何でだろうな。あまりのヘボさに呆れることはあっても、歯を食いしばって這いつくばってでも、終わりの見えない先へ進んでいくようなテツヤの顔は嫌いじゃないぜ、オレ。
 オレはダイキじゃねえからな。ここでテツヤが倒れたって、ほいほいとおぶってやるつもりはない。けど走るペースを落として、ささやかにサボるのはオレの勝手だ。


2015.04.18(爽やか青空を突き進め!)