テキスト | ナノ

 黒子が風邪を引いて熱を出した。まったく抜かっていた。季節の変わり目、黒子はいつも体調を崩すが、それが寝こむほどになるとは。本当に情けないと黒子はベッドの中で鼻をズズッとすすった。
 そのとき、完全に外界を遮っていた寝室のドアが開いた。おぼんを手にした青峰が、「だいじょーぶかよお、テツ」ニヤニヤとからかうように笑いながら黒子に近づく。青峰はサイドテーブルに持っていたモノを置くと、ためらいなく黒子の額に貼っていた冷却シートをペリッとはがす。おぼんの上に乗せてきた、新しいそれを再びなじませると、おまけとでも言うように、いつもは前髪で隠れる黒子の丸いおでこをてんてんてんと叩いた。
「ぜったい楽しんでるでしょう、青峰くん」
 されるがままになっていた黒子は少しでも抵抗してやりたくて、毛布を口もとギリギリまで引っぱって青峰を困ったように見上げる。
「ンなことねえよ。おら、卵粥。オレをにらむ元気があるうちにちょっとでも食っとけ」
 黒子はダルい体を青峰に助けられながら起こし、指されたおぼんをサイドテーブルからありがたくもらった。
 器に盛られた粥はちょうどいいくらいに冷まされている。熱いものを食べるのがいささか苦手な黒子の身になってきちんと考えられていた。量もちょうどいい。むかしから何だかんだと面倒見のいい青峰は、黒子との同棲を始めてから、またいちだんと頼もくなったようだった。日々成長する青峰の旦那力に、黒子はいちいち惚れ直させられる。
 食後の薬を用意する青峰を見ながら、黒子はしみじみと考える。顔があついのは、熱と粥のせいだ。


2015.04.14(あの子の看病でドキドキ)