「黒子は桜の下にある空を見たことがあるか?」 どこまででも続いていると錯覚するほどの桜並木の道を、赤司と黒子は歩く。つと赤司から訊ねられた問に、黒子は戸惑いを隠せなかった。 「それっておかしいですよ、赤司くん」 「どうして」 「だってキミいま、下って言いました」 「ああ、それで合っているよ」 黒子はますます首を捻る。 「では、ボクにはありません」 きっぱりと言う黒子に、それは残念だ、と赤司が楽しそうに笑った。ふいに赤司の足が止まる。隣りあっていた黒子も、それにつられてしまった。 「オレにはある」 そう言って赤司は黒子の髪に手を伸ばした。赤司の瞳の先には、晴れ渡った空の色をした髪と、まるで無数の蝶が際限なく羽をはばたかせて留まっているような、薄紅色の景色が広がる。 「こんなに綺麗なのに」 赤司は指先で黒子の髪をとうとうと撫でながら、もう一度口を開く。 「綺麗だよ、黒子」 黒子の頬は桜色に染まっていた。 2015.04.13(桜を見上げる空のはなし) |