テキスト | ナノ

 その日、ボクは、伊月先輩と二人で帰っていた。寂しそうに見えてあたたかい、冬の星空の下で、白い息を立ちのぼらせた。先輩が「深い意味はこれっぽちもないんだけどな」と前置いて口を開く。
「黒子はさあ、なんで誠凛に入ろうと思ったの?」
 ボクは一年と少し前、夏に観客席から見た試合の光景を頭に思い起こす。それから、落とし物を届けようとした際に先輩たちの試合を見たんです、と答えた。すると先輩は途端に深く頷いて、「ああっ! あれだろ、日向の生徒手帳! 届けてくれたのお前だったんだなあ。いや、世間は狭い! 狭いよ。て言うか間抜けだよなあ、日向も」楽しそうに笑う先輩の声が、夜の中に響き渡る。ボクはそれが遠くのほうで止むのを待ってから、言葉を付け足した。
「バスケが好きな先輩たちのバスケが、あの頃のボクには羨ましくて、ずっと好きでした」
 伊月先輩は少しだけびっくりしたような表情を浮かべながら、それはまたダイタンな告白だ、と唸った。けれど次の瞬間にはもういつもの穏やかな表情を浮かべていて、「うん、それじゃあ、頑張らないとな」と、力強い言葉をボクにくれた。
 ああ、頑張らナイト、夜だけに。最後にそう呟いた先輩の言葉は夜の底に落下した。


2015.02.03(遠くにある夜を君に捧ぐ)