テキスト | ナノ

 もともと部活が休みだった今日、ぐうぜん靴箱を出たところで顔を合わせたオレとテツがストバス場に行ったのは、ヒツゼンだった。
 だけども冬に片足を突っ込んだみたいな今の時期は日が落ちるのが早い。不満だ。ふたりでバスケットボールを触りはじめてからオレたちの周りがすっかりだいだい色に染まっていることに気がつくまでは、ほんの一瞬だった。
「まだちょっとしか動いてねえのにな」
「ボクたち結構な時間ここにいると思いますけど」
「そうかあ?」
 だいだい色のボールを両手ではさんだテツは、肩で息をしていた。そう言われると、そんだけバスケしてたかもなあ。何かいきなりタイムスリップしたみたいな感じだ。
 オレはふっと身体の力を抜いて、地面に倒れ込んだ。そしたらテツも、黙ってオレの隣にちょこんと座る気配がした。顔を横向けて見ればやっぱりテツがオレのすぐ近くで三角座りしていた。そうやって座ってると、余計ちんまりしてるように見えて笑える。
「なにひとりで笑ってるんですか、青峰くん」
「いんやー、べっつにい」
「よく分かりませんけど、なにか失礼なことを思われていることはなんとなく分かる気がします」
「そんなんじゃねえって」
 見上げたテツの横顔は、笑っていた。その向こう側、遠く離れた背景にだいだい色の光が映り込む。今日も一日仕事を終えて、消えていく太陽だった。それが最後に瞬くみたいに鈍くきらめいて、オレは目を眇めた。思わず光を遮るように顔の前に手をかざしたら、ちょうどだいだい色の球を掴んでるみたいになった。そこに浮かぶ既視感。何だっけこの感じ。あっ、
「夕方の太陽ってバスケットボールみたいだ」
 頭で考えた言葉がそのまんま口から転がった。そんな何気ないオレの言葉にテツが息を飲むのが分かる。たぶん次に言うことを考えてるんだ。オレはテツの言葉を待つこの時間が嫌いじゃない。
「キミって意外とロマンチストなんですね」
「ロマ……なんだァ、それ?」
「あと、本当にバスケしか頭にないですし」
「お前、それってやっぱバカにしてるだろ」
「そんなんじゃありませんよ」
 テツはそう言ってよいしょっと立ち上がった。ぱんぱんっと制服のケツを叩いてから、寝ころんだままのオレの上に影を落とす。
「帰りましょうか、青峰くん」
 それから側に置いてあったホンモノのバスケットボールをまた両手で拾い上げながら、テツは呼吸をするようにぽつっと呟いた。
「まるで同じことを考えていたんですね」
 なんだよ、お前だってロマ……ロマなんとかじゃねえか。悪戯っぽくそう言ってやりたくてアスファルトの地面から起き上がったら、頭の後ろがじりじりした。


2014.11.30(天然石をだいじに磨くの)