テキスト | ナノ

「ああっ、ひっ、やっ、だめッ」
 黒子っちの小さな口から内緒話をするときみたいな声が息と混じって部屋の中に散っていく。それが誰かにバレてしまったように、あっ、と短く言葉が途切れると同時に、オレが握っている黒子っちのペニスから白濁の液が飛び出した。
 アナルとペニスからそろそろと手を引く。黒子っちは糸が切れたみたいに身体を弛緩させて、仰向けにベッドにどさりと倒れ込んだ。
「ふうあっ……、はっ、あ……」
 吐き出した精液を乗せて大きく上下するお腹を上から眺めた。日に焼かれることを知らない、女みたいな白い身体は、けれど今まで見たことある女の裸より線がしっかりしていて、あからさまな凹凸がない。腰から首までなだらかに伸びる、その真っ直ぐさが本人と同じで綺麗だと思う。
 絶頂を迎えてだんだん落ち着いてきた黒子っちは眉を悩ましげに寄せて、今にもとろけ出してしまいそうな甘い表情を浮かべていた。それを見て、オレはずぐりとまた下半身が重くなるのを感じた。覆いかぶさるように黒子っちの薄く開いた唇に一度キスを落とすと、彼の顔を覗き込む。はやく黒子っちと繋がりたい。そう伝えるのに言葉はいらない気がして何も言わずにいたら、黒子っちも黙ってオレの手をさわった。オレはいよいよ膝裏を持ち上げて、黒子っちのアナルに自分のペニスを挿入していく。
 誰かとこんなことをするのは初めてなんです。ここまで来る前、ベッドの上で向かい合ったとき、黒子っちが言っていた。たぶんでも何でもなく初めて他人の熱を受け入れようとしているすぼまりは、いくらほぐしても少し乱暴にするだけですぐに壊れてしまいそうだ。壊したくない、傷つけたくない、大切に、したい。誰かと身体を繋げたことはあったけれど本当のセックスをしたことは一度もなかったんだと、黒子っちにたいしてそう思う今になってようやく分かった。我慢するように引き結ばれた唇もそらされた顔も、震える肩も全部が愛おしい。
 時間をかけて挿入していった。一度すべてがおさまりきると、うねる肉壁に包まれる何とも言えない感触に息をのんでゆるゆると小さく腰を動かし始める。そして奥を一際強く突いたとき、
「あっ、や、んやッ、きせく……っ! まっ、きせくんッ、あ、待って、待ってくださ、いあ……ッ」
 それまで静かに溜まった熱を吐息にして外に逃がそうとするだけだった黒子っちが途端に大きな声を出したからびっくりした。ペニスを入れたまま慌てて動きを止めて上体を屈めると、黒子っちはどこか縋るようにオレに腕を回して抱きついてきた。
「ごめんっ、ごめんね黒子っち、どっか痛かったんスか? もう乱暴にしないから落ち着いて? ね、大丈夫、大丈夫っスよ」
 そう宥めながら頭とか腕とかをさすってあげたら黒子っちはふるふると力なく首を横に振った。
「ちが、違いますっ、はっ、あ、ボク、こわ、こわくてっ。……ひとりでするときよりも、気持ちがよすぎて、ぞくぞくするのが止まらなくなって、こわい、怖いんです……ッ」
 首筋にぎゅっとしがみつかれているから表情は見えない。でも声が濡れていた気がした。くぐもった声の消え入りそうな告白に、オレはどきりとした。黒子っちがちゃんと気持ちよくなってくれている、そう分かったから。嬉しい。オレとのセックスで、黒子っちを気持ちよくさせてあげられるのがすごく嬉しい。
 オレは気づかない内に緊張していた身体から力を抜くと、黒子っちの背中の下に手を差し込んで抱きしめた。きっと初めて苦しいくらいの快感に襲われて怯える黒子っちが怖くなくなるまで小刻みに震えるこの身体をずっと抱きしめていたい。


2014.11.09(ふたりでなら怖くないよ)