テキスト | ナノ

 ベッドを軋ませ、ふたり乗り上げるところまではやさしかったのだ。うぶで臆病な少年のように、遠慮しがちにゆるい手つきで、そっと頬を撫でていたのに、氷室が一枚、また一枚と着ている衣服を脱ぎ捨て、初物の陶器に雨粒がただひとつ降りかかるように汗ばむ白い肌を少しずつ露呈させていくと、氷室の上に跨がった火神は目の色を変えていった。もうすっかりと大人の男の顔つきになった火神は、氷室の滑らかに流れる首筋に唇を落とし、出っぱった鎖骨に噛みついて、薄色づく乳首を舐め囓った。それと同時に下の性器も肉厚のゴツゴツした手で輪を作り、ゆるゆる嬲ってくるものだから、氷室のほうもいよいよ余裕のなくなり、美しい顔を歪めながら熱い溜息を漏らす。
「タイガ、ぁ、」
 火神の指が氷室の秘孔を暴いていく。尻のなかを二度三度トントンッと圧されると辛く、氷室は、淡海へ身を投げたかのように、短い喘ぎを止まず繰り返し、自分を責め立てる火神の肌を求めてちぎれるかと思うほど腕を伸ばした。その手と手が重なるときが、おそらく合図だった。
「タツヤ」
 火神の息も荒く熱かった。その頃にはもう互いに必死なようだった。氷室が一度頷くと、火神は切ない顔をして自身の勃起しきったペニスを氷室の孔にぐんと押し込めた。それからと言えば、氷室は何をしているのか分からないくらいだった。身体が激しく揺さぶられ、快感の波が押し寄せる。頭がおかしくなったと思った。ふたり揃って馬鹿野郎である。
 ふいと氷室の目の前が影で濃くなる。火神が顔を詰め、噛みつくようなキスを寄越した。分厚い舌に口腔を掻き乱され、塞がれてしまうと、いよいよ息ができなくなって、目がかすんでいく。ああイくのだな、と氷室は朦朧とする意識で思う。達する直前にキスをしてくるのが火神の癖だった。生きるために母の乳に吸いつく赤ん坊みたいなそれが心から愛しく、氷室はふにゃと弱々しく笑んで、火神の全てをその身に受けた。いくら男の顔をしていても、やはり可愛いものだ。


2019.08.02(見果てぬ夢のやさしい獣)