テキスト | ナノ

 なんとなく、今日は空が近いなと青峰は思った。彼の周りには人も建物も、木や植物ですら存在しない。可笑しな空間で可笑しいとも思わずに、ぼうっと突っ立っている。ここにあるのは自分と空とだけだ。ふと、青峰は空へと手を伸ばす。触れられるはずもないものへと指先が触れた瞬間、視界がぐにゃり。
「わっ」
 小さな声に揺られて瞼を持ち上げた。ギラついた太陽に、容赦なく眼孔を突き刺される。視界にはほど高く広がる空と、風にさらさらと靡かれる空、色をした髪が映った。青峰は、どうやらそれを鷲掴みにしているらしい。試しに指の腹でちょっと撫でてみると、柔らかい。眠っていた。夢からさらに現実へ引き戻されると、バスケットボールが見えて、それから、鼻先に触れそうなくらい近くに黒子テツヤの困り顔があった。
「あの、痛いです、青峰くん」
「よお、テツ」
 そう言えば今日は黒子や火神や黄瀬や、まあ、いつものメンバーでストバスをする約束で、青峰が来たとき、まだそのなかの誰もいなかったので近くにあったベンチに腰かけていたはずだった。それがどうやら。
 等とこれまでのことを黙って思案していたら、手のなかで黒子の小さい頭がもぞもぞ動く。
「いい加減に離してください、青峰くん。もうすぐみんなも来るでしょうから」
 うんしょうんしょと自分の手からなんとか抜け出そうともがく黒子を、他人事であるかのように眺めていた。いまだ寝惚けているのだろうか。せっかく手に入れた『空』を手放すのが惜しくて、すぐそこにある唇に噛みつく。ふにゃり。


2019.03.04(空にキスをする夢を見た)