テキスト | ナノ



 ボクがひとりで体育館に残った月曜日。
 黄瀬くんが「やっ、黒子っち!」と手を振ってその扉からひょっこりと顔を覗かせました。彼にはめずらしく連絡がなかったのでボクは抱いたバスケットボールを驚いて落としてしまいました。「どうしたんですか黄瀬くん、こんな遅く」と訊けば、彼はただボクに会いたかったのだと言います。
「オレ、また時間見つけて黒子っちにたくさんたくさん会いに来るっス! そんでオレと一緒にバスケしてね」





 ボクがひとりでお昼ごはんを食べた火曜日。
 スマホからメールの受信を教える電子音が鳴りました。カーテンなびく窓際の席で、そう言えば消音にしていなかったことに気づいてから差出人を見れば紫原くんからでした。なんでも、中学生の頃にボクたちが共通して好きだったお菓子の秋田限定版を見つけたのだそうです。
『黒ちんも食べるよね? そっちまた行くときのお土産、楽しみにしてて。ま、そのついでにバスケしてあげてもいいけど』





 ボクがひとりでマジバへ行った水曜日。
 ボクの座った場所に緑間くんが知らずやって来ました。一応、あの、と声をかけると、彼は肩を大きく跳ねさせ、口をぽっかりと開けました。それはなつかしい光景でした。
「高尾くんはいないんですね」
「いつも一緒なわけじゃないのだよ」
 一度ついた席を変えるのは行儀が悪いと口籠った緑間くんは、ボクの向かいに座りました。
「仕方ないから今日はお前と食べてやる。バスケの話でもしながらな」





 ボクがひとりで登校していた木曜日。
 鞄の奥に仕舞った電話の着信音が鳴りました。ごそごそ手探ってようやく見た相手が赤司くんだったので、ボクは急いで通話を繋げました。彼は「忙しかったかな」と笑ったあと、ボクに元気かと訊きました。おずおずと「赤司くんは?」とだけ返事をすれば、寂しいのかな、と曖昧ながらもその声はさっぱりとしていました。
「寂寥とは不思議だ。大切な感情をまた教えてくれたバスケがオレは好きだよ」





 ボクがひとりで下校していた金曜日。
 制服のポケットに入れていた電話が、また鳴りました。今度はすぐ出なければという使命感から相手を確認せずにボタンを押せば、数秒の沈黙ののち、「もしもし」と青峰くんのぶっきらぼうな声がしました。青峰くんから電話なんて何か余程の事件でも起きたのかと心配すると、彼はそんなんじゃねえと恥を隠すように低く唸りました。
「どうせ明日、部活終わったら暇だろ? ちょっとバスケ付き合えよ」





 ボクがひとりでストバス場へ向かう日の朝。
 空は青く、突然まんまるい穴が浮いたように白く縁取られた太陽がさんさんと輝いていました。
 ボクはこの数日でたくさんの大切な人たちから、ちょっとの切なさと有り余るほどの優しさを貰ってきました。これからも、たぶんそうやって、仲間に助けられながらボクは生きていく。そして、それを今度はボクが返していきたいです。
 まずは、そう、一足先に挑戦の道を選んだキミが成功することを。




2017.03.19(終焉のあとはまた始まり)