テキスト | ナノ

 練習試合を終えた帰りのバスのなか。
 部員たちの、冷めやらぬ熱気とそれにともなう疲労感が狭い箱のなかに充満するのに、オレは辟易してため息をつく。試合の結果は言うまでもなく、圧勝。無敵の名をほしいままにする帝光中バスケ部として当然の結果であり、それはまた、必然だった。
 バスのなか、ふたり掛けの席をひとりで占領し、窓の外を流れる景色を、ただ淡々と見送る。ちょうど最後部座席からひとつ前に位置するオレのすぐ後ろには、青峰、黄瀬、黒子の3人がいるはずだが、そう言えば先ほどから声がしない。まあ、そんなことを気に留めてやる義理もなし、静かなことは良いことだ。
 さて、今回の試合先はいつもより少し長い遠征となった。行きはサービスエリアでの休憩が一度入っており、帰りも同様だった。バスが止まると、飲み物を買うためにオレは立ち上がりつつ、途中から妙に静かだった後部座席を、眼鏡のブリッジを押し上げながらちらりと振り返る。
「おい、お前たち……」
 するとヤツらはどうも、眠っているらしかった。
 青峰は、いつもの不遜な態度を表すように脚を大きく開き、ついでに口もあんぐり開き、偉そうに腕を組んでいる。黄瀬は、さすがモデル業をしているだけあり、眠っていても周りにきらきらと何かそうしたものが飛び散っていそうな雰囲気をしている。こういうのを女子が見たら、またきゃあきゃあと煩く騒がれるのだろう。まったく迷惑の極まりない。
 黒子は、その間にすんなり挟まっていた。自分よりサイズのでかい男ふたりの下にうずもれているようにも見えるが、本人はまったく気にならないらしく、青峰の肩にもたれながら、すうすうと健やかな寝息を立てている。
 つかの間の休息。実に平和ボケしている。しかしその光景を眺めながら、なお彼らを叩き起こすことのできない自分をふがいなく思いながら、オレはその場をあとにした。
 それからしばらくして……。
「ああー! 緑間っち、なんで起こしてくれなかったんスか!」
「やっぱり陰険メガネ野郎だな」
「ボク、飲み物欲しかったです」
「ええい! やっぱりお前たちが可愛いはずがないのだよっ!」


2016.08.13(きみはかわいい元気な子)
古いデータ第二弾。初ネタ出しはやはり2012年。