※黒クロ第20Q派生 青峰が行ってしまった。この合宿がはじまって以来、ようやくふたりきりで落ち着いて話すことができた時間は途端に過ぎてしまったけれど、黒子の心はほの温かいものだった。 黒子が青峰の残影をたどって、青峰の去っていったほうをいつまでも見ていると、「おーい!」とふたたび火神が自分を呼ぶ。振り向けば、彼は黒子のもうすぐ隣まで来ていた。 「火神くん、どうしたんですか?」 「どうしたもお前がなかなか帰って来ねえから見に来たんだよ」 思いきり呆れた声でそう言う火神は、ふと黒子が両手でしっかり握りしめて、胸に抱いているそれに気がついた。 「なんだよ。お前、自販機に牛乳買いに来たんじゃねえのか?」 「え、まあ」 目をぱちぱちと瞬かせて、黒子は自分の手のなかにきちんと収まる一本のスポーツドリンクのボトルを見下ろす。先ほど青峰が、自販機へやって来た黒子がなにも言わないうちに、そうするのが当然であるように、自身の金で買って寄越したものだった。 その光景を脳裡に思い起こして、黒子は大切なものを胸のなかへそっと秘めるように笑った。 「なにひとりで笑ってんだ?」 「いいえ……ふふっ、飲みものは、そうですね、これで良いんです」 「はあ?」 「無理をしなくたってボクはボクですから。ゆっくりやれば良いと言われてしまいましたし」 「言われたって、だれにだよ」 「青峰くんです」 「青峰? あいついままでここにいたのか? つうかあいつがお前にそう言ったのかよ」 「いいえ、直接には」 「なんだそりゃ。まっ、いいけどよ。さっさと部屋戻ろうぜ、グズグズしてたらすぐに消灯時間になっちまうぞ」 「はい、そうですね」 そうして黒子は火神と一緒に合宿部屋へ戻ることになった。 その場をあとにする前、黒子はふと立ち止まり、もう一度青峰の去っていった廊下を振り向いた。目をすがめてじっと見れば、まるでそこに青峰のひとりで歩きゆく広い背中がぼうっと浮かぶようだ。 ぶっきらぼうな足取りで黒子の側から離れていく彼の影を目で追いながら、黒子は唇をきゅっと噛み締め笑う。 「おい、黒子! なにしてんだよ、はやく行くぞ」 「あっ、はい、いま行きます」 踵を返して廊下を小走りすれば、黒子の手に握ったスポーツドリンクから水の粒がきらきらとしたたり落ちた。 2016.08.11(水面に映る影を探してる) |