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※黒クロ第12Q派生


 巨大施設を借りて6校合同合宿が行われる最中、昼休憩が終わっても黒子テツヤが誠凛高校の使用する体育館に現れなかった。ふだん真面目で何事にも真摯な態度の彼がいくら待てども集合場所に来ないことに、館内は騒然とし、すぐに部員みんなに黒子捜索の使令がくだされた。
 木吉はひとり、施設裏の屋外に来ていた。建物に沿って、木々がぽつぽつと並ぶ、そのひとつにじっと座り込む影を見つけた。
 背後からそっと近づいたつもりだったが、その人物が、こっちを振り返る。赤と鬱金の瞳が木吉を射抜く。その人とは、洛山の赤司征十郎だった。
「おっと」
 意外な人物の登場に、木吉は思わず声を上げた。それがあんまり不躾なように感じて次いで、すまないと謝りかけたけれど、叶わなかった。赤司が木吉に向かって、自分の唇に人差し指をあてて、しーっとジェスチャーを見せた。そのまま赤司が目線を下にやる。木吉もつられて下を見る。すると赤司の動作の意味がよくわかった。
 黒子が、赤司の膝の上に頭を置いて眠っていた。その側にちいさな身体を丸めたテツヤ2号もいる。
 木吉はこの状況に目を丸くした。黙ったままいると、赤司が薄く口を開く。
「無冠の五将の『鉄心』、木吉さんですね」
 言われて、その呼び方されるのはあまり好きじゃないんだけどなあとすぐに独りごちながら笑った。
 赤司は木吉を一瞥してまた言う。
「テツヤの迎えですか? すみません、僕がずいぶんと長居をさせてしまったようだ。僕とテツヤと、テツヤの飼っている犬と散歩をしていて少し休んでいたらいつの間にかテツヤが眠ってしまって」
「そうだったのか……」
 本当によく眠っている。練習の疲れなど溜まっていたのだろう。そう思いながら黒子の寝顔を見ていると、ふとその頭に影ができる。赤司が、黒子の頭に手を乗せて、毛並みを上から下へ整えるように、ゆるやかに撫ではじめた。
 木吉はちょっと首を傾げてその光景をぼうっと見つめた。
「テツヤが言っていた」
 また赤司から、言葉を発する。いままで話したことはなかったが、案外と口数は多いほうなのか? 木吉がそんな的外れなことを考えている間にも、赤司は話を進める。
「貴方の手は大きくて頭を撫でられるととても安心するのだと」
「黒子がそんなことを?」
 話す間、赤司は一度も木吉を見なかった。ずっと黒子の頭を自分の手で撫でていた。まるでこの役目は自分だけのものなのだと主張するように。
 木吉はしばらく目をぱちぱちしていたが、やがて口元をふっとゆるめた。そして何も言わず、くるりと背を向ける。
「すまないけど黒子のこともう少し頼むな」
「……いま起こさないのですか?」
「ああー、たぶんもうすぐしたら火神かうちのキャプテンが来ると思うからそれまでってことでさ」
 大きな背中で赤司の声を受けると、木吉は最後、手を上げてその場を去っていく。自分に負けじと黒子の頭を撫でる赤司と赤司の膝に顔をうずめてぐっすり眠る黒子、いまのふたりを引き離すには、木吉の心は優しすぎた。


2016.08.07(あなただけの私でいたい)