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0104//お年玉



「困った…」

20歳たるもの、見た目はどうであれ子どもたちにお年玉をあげるもの。
今までお年玉と呼ばれるものはいただいたことがないし(遠慮したりもしてたんだけど)相場がわからない。
そしてこの世界には未成年も多い。つまり、あげる対象が多い。
さらに言うなら、私は家賃から光熱費、水道ガス代まで何もかからないし、食費だって支給されている。最低限だけど。
少々花屋での稼ぎはあるが、未成年の子たちの数を考えると明らかにマイナスだ。
人様に借りてまでお年玉はあげるもんじゃあないし…私は考え抜いた末、一人1000円という1時間強バイトすれば貰える額で手を打つことにした。






ジョースター家には直接、暗殺チームのペッシには街角で買い出し中のリゾットさんに預けた。
4部の高校生達にはぶどうヶ丘高校前に集まってもらい手渡し。
他の子たちにもなんとか渡し、残るは荒木荘に住むドッピオくんだ。
なんたるミッション。あそこは化け物らが住む恐ろしいボロアパートだ。

行くか。あそこに。




住所は覚えてるし、私は重い足取りで荒木荘へ向かった。



「おお、来たか名前」

「貴方には用はないんですけどね、カーズさん」

扉を開ければカーズさんが飛び出してきた。
ぎゅっと抱きしめられ、私は精一杯に不快感を声色に込めたつもりだったけれど、どうやら彼の耳には届かなかったらしい。

「私に会いに来たのか?」

「だからアンタには用はないって。ドッピオくんいます?」

“むぅ、そうか”と寂しそうに離してくれたので、たんぽぽを作り出して頭にさしてやる。
人間はカスみたいに思ってるくせに、動物や植物が好きなこの男は、私の能力を大層お気に召している。
紫暗の髪に黄色いタンポポがよく映える。

カーズさんは満足したようで、ドッピオくんを呼んできてくれた。
何故かディアボロさんもついてきたけど、丁重にお断りした。







近くのカフェに入ると、ドッピオくんがそわそわとあたりを見回す。
可愛いな、この子。

「あ、あの、僕に用事ってなんですか?」

「え?ああ、お年玉。ごめんね、まだまだ稼ぎが足らなくて…」

おずおずとぽち袋in1000円札を差し出すと、ドッピオくんは慌てて両手を振った。

「そ、そんないただけません!女の子にお金をもらうなんて!そんな!」

ああ、この子もイタリア人か。

「え、でもここ日本でしょ?日本では大人が子どもにお年玉をあげるのです!だから受け取って?」

「うう〜…」

「ね?」

「…はい」

ドッピオくんは渋々受け取ってくれた。よかった。
その後はしばらく珈琲を飲みながら荒木荘内の愚痴に付き合う。
ああ、うん、苦労してるよね。大変だよね。



ついつい話に花が咲き、珈琲どころかケーキまで食べて大満足。
お支払いを済まそうと思ったら、すでにお支払いただいていますと言われてしまった。


「あの、名前さんが席を立ってる間に…あ、お金は名前さんから貰ったのじゃなくて、ちゃんと僕のです!だから安心してください」

「え、ちょ、ドッピオくん!?」

「さ、家まで送りますよ。今日も冷えますね」

すんなり手なんかつながれちゃって、可愛らしい顔をしたイタリアボーイにちゃっかりエスコートされてる。
あー、なんて嬉しいこと尽くしなんだ。


これじゃどっちがお年玉をあげたのかわからないじゃあないか。




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