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「セバスちゃぁあん」
「やめてください。気持ち悪い」
そう行って彼は、悪魔のケツを追いかける。
「あぁんっ今日もサイッコー!」
グレルはクネクネしながらにやついている。
セバスチャンさんに殴られた頬の腫れが痛々しい。
「ねぇ、ナマエ!」
「なに?」
突然名前を呼ばれ顔をあげる。
キラキラした笑顔がまぶしい…。
「セバスちゃんってイケメンよね!?」
「そうだね」
確かに整った顔をしてるし、なんでも出来ちゃう完璧生物。
綺麗過ぎる深紅の瞳は何を考えているのかわからない。
そこがまた“そそる”というものなのかもしれない。
私は横目でグレルを見て、ふと過去を思い出した
「どうしてグレルさんなんですか?」
私は近くで仕事があったのでいつもグレルが迷惑かけてるぶんの詫びを入れるためにファントムハイヴ家に足を運んだ。
そこでたまたまセバスチャンさんと話し込み、素敵な客室に案内された。めっちゃ良い匂いするこの部屋。
シエルくんは“まあ貴様なら害はないだろう”って言ってくれたからこうやってのんびり出来てるんだけど、これでも死神だし、商売道具の人間に認められ、商売敵の悪魔と談笑していていいのかな、とは思う。
「まあ、あれは、腐れ縁ですから」
セバスチャンさんが淹れてくれた紅茶を口に運ぶ。
ふわりとした優しい香りが鼻先を擽り、思わず溜息が出た。
もちろん、味だって最高。
「アールグレイです。スイーツはガトーショコラですが大丈夫ですか?」
「大丈夫です。アレルギーはないので」
「それはよかった」
ガトーショコラもめちゃくちゃ美味しかった。
なんでも出来ちゃうんだな、この人。
本当にすごい。永住したい。
「で」
セバスチャンさんが切り出す。
広い客間に彼と二人。
私は死神だけれど、この超高性能悪魔から逃げ切るなんて夢をみようにも見れないくらいには諦めている。
「何故、グレルさんなのですか?」
「何故固執なさるんです?」
「私が貴女に多少なりの好意を抱いているから、ですかね」
これは俗にいう告白というやつだろうか。
相変わらず端正な顔でにこりと私を見て微笑んでいる。
綺麗な形をした唇が紡ぐ言葉は、どんな唄よりも甘美に響くだろう。
けれど 私は
「ナマエ!」
「!」
「どうしたのよ、ボーッとして」
「あー、思い出してた」
「何を?」
グレルは急に黙りこくった私を心配そうに覗き込む。
自分本位でいつも物事を進めるくせに(それでよくウィルに怒られているのに)、時々こうして心配をしてくれるのがとても嬉しかった。
「セバスチャンさんとのデート」
嘘ではない。
願わくば嫉妬してほしいところだけれど、きっと“ずるいワ!”なあんて悔しがるんだろうな。
「なにもされてない!?」
「え?」
予想外の問いかけに私は目を丸くする。
グレルに関してはいやに真剣な目で私を見ているので冗談ではなさそうだし…
「こ、紅茶とガトーショコラを頂いただけ、だけど…」
「そう…まったく」
ピンッとでこぴんされた。痛い。
「女の子なんだから気をつけなさい?男はオオカミなんだから」
そうやって笑った彼は、いつものナヨナヨした笑みではなく
獲物を見つめる、貪欲な、
オオカミ
「気づくの遅いわよ」
「え」
乱暴に重ねられた唇。
突然の出来事に、私の心臓は跳ね上がり、彼にも伝わるのではないかというぐらい大きく鼓動を繰り返す。
舌を吸い上げられ、彼の尖った歯に甘噛みされると“ゾクゾク”という擬音が良く似合う快感が背中を奔った。
離された唇
もっと、
もっと
「もっと…」
声が漏れる。
グレルは少し目を丸くし、笑った。
「欲張りね」
紅色恋模様
(いつから?)
(忘れたわ。だって、貴女に会った時からだもの)