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「ディアボロ」

「…」

「眠れないの?」

「…ああ」

「寝ないと体調崩すよ」

「…わかっている」


パッショーネ。
イタリアで勢力を誇るギャング。
この目の前にいるディアボロこそがその頂点に君臨するボスであり、私の恋人といえる存在。

彼は、自分の過去はすべて闇に葬り去った、と年頃の男子が言いそうな台詞をよく口にした。
過去は何も生まない、寧ろすべてを破壊していく。そう言っていた。


「はあ…ヴィネガーに代ったら?彼はすぐ眠るし」

「そうすれば、お前に触れれない」

「とても我儘だね」

この男は、すべて捨ててきたくせに、私のすべてをモノにしようとしている。
別に、そんな必死で手を伸ばさずとも、ずっと触れていなくとも、私はすでに彼のものだというのに。
彼が捨ててきたように、私が彼を捨てるのでは、という妄想によく駆られている。


「どこにも行かないよ」


そういえば不安そうに私を見る。
その目はじっとりとしていて、時に鋭くて…でも私には子犬のように可愛く見えた。


彼が横になるダブルベッド。
私はそこに腰掛けている。
スペースは十分にあるのに、私はいつだって彼が眠るのを待ち、そして、彼が起きるのを待つ。

コーラルレッドにエメラルドグリーンの斑点がついた不思議で長い髪。
それに指を絡めれば、彼は目を閉じた。


ほうら、貴方はこれがとても好き。


優しく頭を撫でる。
初めは身をよじったり、落ち着かない様子だったけれど、いつの間にかに規則正しい寝息が聞こえる。





そして私は頭を撫で続けながら、月が輝く窓を見た。



こんなに月が綺麗な夜だから、もしかしたら貴方を殺しに誰か来るかもしれない。
たから、貴方が自分の身を案じる以上に、私は貴方を心配してしまうの。


「大丈夫、私が死んでも、貴方を守るから」


静かに眠る彼の髪に、そっと唇を這わせる。


言い表す事ができない不安と対峙する毎日。
私が死ぬか、彼が死ぬか、それまできっと、この夜の生活は続くのだろう。




完璧義のインソムニア


(また今夜も眠れない)