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今日も秋葉へ来たぞ!!!
やっぱりいいなぁ、秋葉
ボクの心のオアシスだ!
坂道は、久しぶりの部活休みに、練習もかねて秋葉に来ていた。
今泉や鳴子も誘ったが、あいにく二人とも家の用事があるらしく、一人での秋葉となった。
「今日はどこから回ろうかなぁ〜…ん?」
坂道の目にとまったのは一人の少女だった。
少し栗色の髪が風に揺れていて、服装はとても目立つ白のワンピース。
肌も白く、まるで二次元から出てきたようだった。
そんな少女は少し困ったようにあたりを見回している。
声をかけるべきか、否か
坂道は自分に問いかける。
「こ、困ってるとき、いつもみんな声かけてくれるもんね」
言い聞かせるように少女に歩み寄る。
「あ、あの」
「!」
少女は少し驚いたように目をぱちくりさせた。
かわいい、と坂道は一瞬見惚れるも、すぐに言葉をつづけた。
「なにか、困ってるんですか?」
そういうと少女は嬉しそうに笑った。
「そうなの!」
困っていることを肯定しているのに笑顔なのは不思議だが、なにかあったのか、と坂道は再び質問する。
「うん、えっとね、秋葉原、興味があってきたんだけど、実は田舎から上京してきたばかりで何もわからないの。どこになにがあるのか、とか、しかもまだお友達もいないし、せっかく来たけど立ち往生で…」
しょんぼり、とうつむく少女に坂道は いてもたってもいられず、その手をとった。
「ボ、ボクでよければ案内します!」
「え!?」
「あなたの行きたいところや場所、全部案内します!」
「で、でも、君も何か用事で来たんじゃ…」
「大丈夫です!ボク、毎週通ってるので!」
「えぇ!?」
「どこに行きたいんですか?」
「んと、えと、じゃあ・・・あ!」
少女は地図を出したところでおもむろに顔を上げた。
「私、苗字名前!あなたは?」
「さ、坂道!小野田坂道です!」
名前という少女は嬉しそうに微笑み、「よろしくね、坂道くん」と言葉を続けた。
毎週通っている秋葉原は遠い庭のような存在。
名前が行きたいと行った場所はすぐに案内できた。
以外にも名前はなかなかコアなヲタクらしく、特にラブ☆ひめが好きということで話も盛りあがった。
また、交通費や食費を削ってグッズにお金を費やしていると聞いてますます親近感が沸いた。
花が綻ぶように笑う名前はとても愛らしくて、世の中の“ヲタク”に対する偏見を一掃出来そうだ、と頭の隅で考える。
「ねえ坂道くん!おそろいのストラップ買おうよ!」
「お、おそろい!?」
「うん!今日のお礼も兼ねて…あ!これとかどうかな?」
名前が手に取ったのは、クロマニュの色違いストラップだった。
最近発売されたばかりのカラーで、従来の黒とシルバーがあった。
「あ!これいいね!えっと、本当にいいの?」
「気にしないで、そんなに高いものじゃないし」
「そうじゃなくて、その、僕とおそろいで・・・」
自分はヲタクで友達がやっと最近出来た。そんなちっぽけな人間がこんな可愛らしい子とお揃いのものなんてつけていいんだろうか。
いや、ストラップは量産型だし、沢山の人がおそろいになるんだけど、なんとうか…
坂道はうまく言葉に出来ず、俯き手を揉みながら口をぱくぱくと動かした。
「私は坂道くんとお揃いがいいなぁ、こんなにお話できて楽しかったの久しぶりだモン」
名前はそう言いながら笑うと、レジへ向かった。
10分後、お互いの携帯には色違いのソレが付けられていた。
坂道は黒、名前はシルバー。
「坂道くん、本当にありがとう。あの、良かったらまた連絡してね」
「ああああああ、う、うん!ありがとう!僕も楽しかった!」
親の迎えが来るらしく、駐輪場で二人は分かれた。
マネージャーに続き二人目の女の子のアドレス。
いや、プライベートでははじめての女の子だ。
どうやってメールをすべきなのか、そんなことを考えつつ坂道は長い帰路についた。
秋葉に行ったのは土曜日で、月曜が祝日、なんとも重だるい火曜日がやってきた。
自主練習で学校に来ていたのでそれほど苦ではないが、やっぱり休み明けは…と苦笑する。
それより問題は名前に連絡できていないことだった。
彼女からの連絡を待とう、なんて受身になっていたせいで未だに携帯は着信を知らせない。
ひたすらため息をつきながら携帯をみつめる。
「小野田、どうした?」
「い、今泉くん、あの、あのさ…女の子にメールってどうやってしたらいいのかな?」
「・・・は?」
「うわあああああいや、えっと、忘れて!忘れて今泉くん!」
そんなやり取りをしていると担任が入ってきた。
“転校生を紹介する”よくある台詞とともに黒板に書かれた文字と、入ってきた少女に坂道は胸を高鳴らせた。
「え…?」
「苗字名前です!」
彼女が元気に自分の名前を言ってクラスを見回したとき、坂道と目が合った。
名前は驚いた顔をしたが、すぐに笑顔に戻りポケットから携帯を取り出す。
携帯を顔の横に持っていき
「よろしくお願いします!」
外光を浴び、シルバーに輝くクロマニュを揺らしながら飛び切りの笑顔で挨拶をした。
御伽噺に恋をする
(おひめさまは目の前だ!)