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(※『それは忠告』の続き)



“喰うぞ”


と、宣言通りこいつを食べてしまった。
もちろん、カニバリズムとかそういう類ではない意味で。

特に抵抗もしなかったので、女なんてこんなものかと思ったが驚いたことに処女だった。
無遠慮に彼女を貫いた時、悲痛な声をあげたので、自分を受け入れた部分に目をやれば、少量の血がどちらとも取れない愛液に混じっていたのだ。

DIO様はこいつを抱いていなかったのか?
もしかしてDIO様にとっては余程大切な存在だったのか?

グルグルと脳内を駆け巡る思考に俺は頭を抱える。

その時


「気持ちよく、ないです?」

痛みに耐えながら、潤んだ瞳で見つめてきたのは名前だった。
その表情は俺の理性をぶっ壊すくらいの威力はあり、そのまま彼女を犯し尽くした。



















隣で眠る名前。
一糸纏わぬその姿は、今朝シーツの洗濯に追われていたあどけない姿とはまた別だった。
白い肌に光に当たると紫暗に光る髪。
何もかもが輝いて見えた。

瞑った瞳を覆う睫毛は長く、頬に影を作っている。
あどけなく開いた小さな唇は、つい先程まで甘美すぎる声を奏で、俺を欲情させていた。

「…」

つん、と頬をつつけば、顔を一瞬顰め、また穏やかに眠る。

だいぶ、無理をさせたのかもしれない。

首筋にあるDIO様から頂いた傷跡に舌を這わせる。
そしてそのまま、ちゅ、と吸い上げてみた。するとどうだろうか。

「いっ、たぁあああい!!」

先程まで微睡みの中にいた名前はベッドの上で跳ね起きたのだ。
涙目になりながら何事かと俺を見、そして俺が裸体であること、自分自身も同じくその状態であることを再認識し顔を真っ赤にしながらシーツをかぶった。


「ヴァ、ヴァニラさんこれは…!」

「これは、と…貴様を抱いただけだが」

「わーーーー!!!!やめてーーー!!!!」

「な!?今は何もしてないだろう!?」

名前がシーツの中でもぞもぞと体を動かしている。
あらかた服を探しているんだろうが、俺が乱暴に脱がせて放り出したのでベッドにはない。

「ヴァニラさん、私の服は…」

「ああ、それなら扉の前…に…」

「え?」

俺はある光景に言葉を失った。
名前も不審がってシーツからひょっこり顔を出す。
そこにはDIO様がいた。
いつからいたのかわからない。
スタンドをお使いになり部屋へと来たのだろうか。
少し薄暗い名前の部屋の片隅に、確かにこの館の主が君臨していたのだ。

「でぃ、でぃおさまぁ」

名前が情けない声で主を呼ぶ。
主は美しすぎるその笑みを湛えた。
至極、満足そうな笑みを。


「随分と激しい行為をするものだな、ヴァニラよ」

「っは」

見られていた!?
このヴァニラが気づかぬほどに夢中に…?いや、そんな

「なんたる、ご無礼を…この全身の血液を捧げても許されぬ失態…」

情けない。
下半身が露な状態で主に駆け寄ることも出来ず、ベッドの上で姿勢を正し、頭を下げるしか出来なかった。

すると突然DIO様は俺達がいるベッドの渕へ腰掛ける体勢となっていた。
またスタンドをお使いになられたのだろう。

「ひゃっでぃ、DIO様!?」

名前はDIO様のスタンドは知っていたが実際に目にするのは初めてなようで目を白黒させていた。

「可愛い名前よ。どうだ?念願叶った気分は」

「でぃ、DIO様っ!!」

名前は赤面を隠すことなく、そして、露になった上半身を隠すのも忘れ、DIO様に詰め寄った。
この女、全裸ということを忘れてはいないか?
シーツがなんとか下半身を隠してはいるが、上半身にある二つの丘陵は惜しげもなく私と、そしてDIO様の眼窩に晒されているんだぞ?

「名前よ、そのような姿をこのDIOに見せるのもではないぞ。歯止めが利かなくなるかもしれんからな。見せるのはヴァニラだけにしておけ」

「え?あ、きゃ!?えっと、あの、DIO様!あの話は内緒って言ったじゃないですか!」

名前は急いで胸元をシーツで隠す。
DIO様は優しく名前の髪を撫ぜた。
ちくり、と胸に何かが込上げる。

「それは無効というものだ名前。すでに貴様はヴァニラに抱かれ、念願が叶ったのだ。もう隠す必要もあるまい」

名前は主を前にあろうことか“もう知りません!”とシーツの中に潜ってしまった。

DIO様は尚も愉快そうに笑みを零し、俺を…いや、失礼だな、私を見た。

「DIO様…」

「貴様の人間らしい部分が見れて嬉しいぞヴァニラ」

「!?」

「昔、貴様は小娘を助けたことは無いか?川で溺れていたらしいが」

「…!まさか」

「そのまさかだ、助けた娘は名前だ」

シーツの中でびくりと名前が体を揺らす。

「礼を言うために随分と探していたらしいぞ。といってもなかなか声をかけれず…俺が復活し、夜に出かけた時に声をかけられたのだ。どうやらこの屋敷に仕えているのを知ったらしい」

私には声をかけれず、DIO様に声を…?

「まったく、ヴァニラには無理でこのDIOには声をかけれるとは笑えてくるなあ?恋心とはこうも人の感覚を狂わせるのか」

「こ…い…」

「ん?まさか、貴様気づいていなかったのか?名前の気持ちに、貴様自身の気持ちに」

「私自身…で、ございますか?」

何を、何を主は言っているのだろうか。

「よくもまあ主であるこのDIOや執事としては有能でだいぶと世話になっているはずのテレンスにあれだけ毎日相談できたものだな。なぁ?名前」

DIO様は大袈裟にため息を吐く。
名前はというと、もうシーツの中で動こうとしなくなった。
恥ずかしさで死んでしまったのではないか。

「どういう…」

「まだわからんのか。名前は貴様が好きなのだ。しかも、自覚がないようだから教えてやるが、貴様も名前を相当気にかけている」

「!?」

私が、名前を?

「名前は体が小さい。故に掃除や洗濯炊事にいたるまでだいぶと体力を使う。そのたびに、貴様はテレンスが助けていると思っているだろうが、真っ先にその様子に気づきそれを手伝いに行っていたのは貴様だヴァニラ」

“そのあとテレンスに押し付けることが多いらしいがな”

「・・・」

言われてみればそうかもしれない。
しかし、我が主に不便があってはいけないと思うからであって…

「ヴァニラよ」

DIO様はまたもや盛大にため息をつく。

「このDIOを思ってやったことももちろんあるだろうが、それ以上に貴様は名前を見、そして心配している。先日熱を出したときも真っ先に気づき、文句を言いながら看病したのは貴様だろう。あのときだけは珍しくテレンスに言わなかったらしいが…なぜだ?」

「なぜ…」

何故だろうか。
看病なんて、一番面倒だ。
DIO様の傍に仕えるのが仕事なのに、看病なんてしていたら務まるものも務まらない。


「その理由は、知っているがな」

「!?」

「あの時相当貴様は焦っていた。倒れるほどの高熱を名前が出したのだ。テレンスももちろん看病を申し出たが、それを断った…覚えているか?その時の台詞を」

「…申し訳ありません…」

覚えていない。
この小さい名前の熱い体を抱き上げ、一番近かったので自分の部屋のベッドへ寝かしつけた。
キッチンも近い、手洗いも近い、場所としては文句がないと思ったからだ。

あの時…確かにテレンスは、手伝いを申し出た。
だが俺は断った。断ったときに吐いた言葉なんて覚えていない。


「“名前に何かされては困る、ことは一大事だ、俺が看る”だったなぁ?このDIOも名前の様子が気になり近くまで行ったのだ。ヴァニラの口からそのような言葉が出るとはな、驚かされた」

「DIO様…」

他人に、尊敬する主に指摘されるのはこれほどまでに恥ずかしいものなのか。
顔を覆いたくなる衝動を必死で抑える。


「別に貴様らの情事を最初から見ていたわけじゃあない。隣の部屋だからな、なかなか“盛り上がって”来た頃を見てやってきたのだが…」

随分と恥ずかしい話を平然とされ、本格的に名前は動かなくなった。
息をしているだろうか。

「随分と激しいセックスをする割りに、優しいとも言える目をするのだな。今もそうだ。このDIOと話しながら名前を気にかけている」

「!?」

確かにそうだ。

「はあ、やっとか、という気持ちだな。子を持つ親の気分だ。このDIOのことを気にかけるのは大変好ましいことだが、もう少しまっすぐ名前を見てみろ。貴様らはお似合いだ。そうだな、まずは…」


“じっくりその腕に名前を収めてみろ”

そういい残し、主は部屋を後にした。
といっても隣の扉の音が聞こえたので、自室に戻られたようだが。


「…名前」


ビクッ


よかった。生きていた。

…?“よかった”?


「ヴァ、ヴァニラさん…」

「何故涙目なんだ…」

「だ、だって恥ずかしくて」

「そうか」

「そうですよ!」

「…こい」

「へ?」

「先ほどDIO様が言っていた。貴様を腕の中にじっくりおさめてみろと。さすればわかるものもあるだろうと」

「…はい…」

シーツを離し、露になった姿で俺の腕の中に納まる。
二つの丘陵は、ちょうど俺の腹筋あたりに押し当てられ、その感覚が妙なようで心地良い。
それなりに力加減をしながら少し強めに抱きしめ、その首筋に顔をうずめればいい香りがした。
おそらく名前自身の香り。

「ああ、そうか」

「ヴァ、ヴァニラさん?」

困惑した表情で俺を見上げる名前は、抑えきれないほど“愛おしい”という感情を俺に溢れされた。


「おそらく、これがそういう感情なのだろう。遅くなったが、俺もやっと気づけたようだ」


行為中、無我夢中でむしゃぶりついたその小さな唇に、俺はそっとキスを落とした。





それは祝




(やりましたねDIO様!これで私たち、名前の相談から解放ですよ!あと自覚のないヴァニラの嫉妬からも!!)
(だといいが、ノロケや喧嘩などの相談に、ヴァニラの表立った嫉妬が増えそうで頭が痛いな)
(Oh...Exactly...)