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名前は日誌らしきものを持ち、あたりを見回していた
それに気づいたのは仁王


「よう、名前。何か探しとるんか?」

「あ、雅治。比呂士見なかった?」

「ひろ…?」

「柳生だよ、柳生比呂士」

「え、お前さん、柳生も下の名前で呼んどるんか!?」

「うん、そうだよー」

「あ、名前さん、ここにいたんですね」


やってきたのは渦中の人、柳生比呂士


「よかったぁ、はい!今日の日誌当番比呂士なんでしょ?ごめんね、皆の様子とか把握したくてちょっと借りて読んでたの」

「いえいえ、かまいませんよ」

「じゃ、渡したからね!私はなんか別にマネージャー日誌みたいなのを作ったらしくて、それ書かなきゃいけないの。比呂士も幸くんのお見舞い行くんでしょ?」

「はい」

「じゃあ、またあとで。あ、雅治」

「なんじゃ」


先ほどまで蚊帳の外だった仁王は少し不機嫌そうに返事をする
しかし名前は気にせず言葉を続けた


「ごめん、着替えるまで上着貸してもらってもいい?さっき、脱いで渡そうとしたんだけど、寒くて…」

「ああ、かまわんよ。女の子は体冷やしたらいかんじゃろ、好きなだけ着とき」

「ありがと!じゃあまた後で!」


名前は挨拶代わりに、仁王の髪を引っ張り、その後更衣室へと入っていった












「やぁああああぎゅ」

「なんですか、気持ち悪い呼び方しないでください」

「まあ聞きんしゃい。なんでお前さん、名前に名前で呼んでもろとるんじゃ」

「聞くというより、答えなさい、ですね、実は…」











『んーと、マネージャー日誌って、レギュラーの当日の様子とかをメモしなきゃいけないんだね、あとは不足してるもののメモとか、気づいたこと…よし、レギュラーの名前の欄埋めなきゃ。えっと…』

『苗字さんじゃないですか、何をされているんです?』

『ああ、ちょうどよかった。今時間ある?』

『ええ、大丈夫ですよ、どうしました?』

『ここのレギュラーの名前の欄埋めなきゃいけないんだけど、漢字とか微妙で…教えてくれる?』

『かまいませんよ、まずは幸村くんですね』

『うん、幸村…せいいち…どの漢字?』

『精進の精に市場の市です』

『妖精の精だね、おっけー。次は真田くん』

『バイオリンの弦の弦によくある一郎で弦一郎、です』

『ほうほう。次は蓮二だね』

『柳くんですね、蓮華の蓮に数字の二です』

『ジャッカルくんって苗字なに?』

『桑原です』

『ふむふむ、ブン太は分かりやすいなーデブって書いてもすぐわかりそう。えっと、丸井ブン太っと』

『次は仁王君ですね』

『仁王っていい名前だよねー、有名歌手とおんなじ名前じゃん。ファンに謝れって感じ。仁王雅治っと。えっと、柳生くんは?』

『比呂士です』

『ひろし?漢字は?』

『比較の比にお風呂の呂、紳士の士です』

『比呂士って書くんだぁ、比呂士比呂士っと。あ、ねえねえ、せっかくだし名前で呼んでもいいかな?』

『ええ、かまいませんよ。では私も名前さんと呼んでもいいですか?』

『もっちろん!よろしくね、比呂士!』













「と、いうことがありました」

「役得じゃのう…はぁ、これでブン太に赤也、柳に柳生まで名前呼びか」


仁王は肩を落とす


「名前呼びと言えば、日誌云々の出来事の後にジャッカルくんの名前が長いから呼び捨てでもいいかと聞いていたのでそこにジャッカル君も加わりますね」

「げぇ…」

「お?俺のこと呼んだかー?」


ナイスなタイミングで現れたのはジャッカル
噂をすればなんとやらは二度も起きた(1度目は柳生)


「ああ、ジャッカル君。貴方も名前さんと仲良くなったようですね」

「名前?ああ、名前が長いからハゲって呼んでいいか聞かれて、せめて呼び捨てにしてくれって頼んだんだ」

「もうハゲでええじゃろ」

「まあ嘘じゃありませんからね」

「俺のメンタル的なところも考えてくれ」












-部室-

結局、真田、幸村を除くレギュラー陣は名前と名前呼びする権利を得たわけだが

「でも、そう考えると真田だけ『真田くん』だろぃ?なーんか可哀相だな」

「かといって下の名前で弦一郎が呼ばせる確率は35%…」

「そこそこ高いんじゃな」


名前と真田以外のレギュラー陣が部室にて二人を待っていた


「あの真田副部長が名前で呼ばれてたら付き合ってるって勘違いされそうッスよね」

「確かに、柳君だけですしね、彼のこと名前で呼ぶのは」

「幸村も時々呼ぶけどそれ以外は聞かないな」

「俺、呼んでいいって言われても怖くて呼べないっスよ」

「赤也が弦一郎に名前を呼んでいいと言われる確立0.02%」

「例えっスよ!つか、0.02って一応あるんスね」


わいわい、と部室がにぎやかになってきたときだった
ドアが勢い良く開き、話の中心になっている真田と名前が現れた


「ごめんね、弦ちゃん持つの手伝ってもらっちゃって」

「いや、かまわん。と、いうより名前を手伝いもせんとは貴様らたるんどる!」


名前呼びを通り越してあだ名になっていた



「こ、これは…計算外だった、データに加えておこう」

「ふくぶちょ、が、『ちゃん』って…!」

「げ、げんちゃん…!俺知ってるぜぃ!あの、2012年の超英雄時間のバイク乗りの主人公だろぃ!」仮面ら/いだー/ふぉー/ぜ

「俺も弟おるから、わ、わかる、ぜよ・・・!う、うちゅう、き、きたー!」

「こ、これは、おどろきました・・・!」

「ま、まじかよ真田・・・!」


皆の反応に真田は顔を顰める


「お、おい名前、やはり『ちゃん』はおかしくないか!?」

「えー、そうかなぁ?真田くんって話してみたらちょっとかたいだけで優しいし、その怖いイメージから払拭していこう大作戦★なんだけど」

「ならば、呼び捨てはどうだ?」

「弦一郎?」

「そうだ」

「うーん…ま、いっか。じゃあ悪いことしたら一週間『弦ちゃん』ね」

「まあかまわん。俺は過ちを犯すことはない。」

「あと試合に負けたら」

「負けん」


なにやら二人の中で話が進んでいく


「なら他のメンバーもそうしなきゃね」



『え!?』


他人事として話を聞いていた他のメンバーにどよめきが



「まず、雅治は『まーくん』ね。なんか子役っぽい!赤也は『赤ちゃん』ベイビー!比呂士は…うーん…『ひーくん』?蓮二は『蓮ちゃん』!ジャッカルは『ハゲ』、ブン太は『ブタ』ね」


「「ちょっと待てぇええい!!」」


もちろん反応したのは最後の二人


「なんだよハゲって!?」

「お前さん実際ハゲとるじゃろ」

「スキンヘッドだ!」

「えー。試合に負けないことと悪いことしないことっての守ってれば普通にジャッカルだよ?」

「そ、それもそうか…」


何故か納得したジャッカルはそのまま下がる
しかし、赤いのが前に出てきた

「俺は納得できねぇぜ」

「納得しろよ、世の真理なんだよ、ブン太」

「せめて『ブンちゃん』だろぃ!」

「それ、歴代の彼女からのあだ名じゃん!」



歴代の彼女

まさか名前から言われるとは思わず、ブン太は言葉を失う
確かに歴代の彼女と名前は顔を合わすことは何回もあった
ブン太に会うため、甲斐甲斐しく毎休み時間にクラスへとやってきていたのだから
3年間同じクラスだったのでそのたびに『ラブラブしてこーい』なんて野次を飛ばしていた
そしてその歴代の彼女達はブン太を『ブンちゃん』と呼び、愛でていたのもよく知っている

しかし、ブン太は名前から彼女の話はしてほしくなかった
いや、彼女を作っているのは他でもない自分自身なのだが、やはり名前に抱く特別な感情がゆえ、苦しかった
なんとなく過ごしてきた毎日で、名前が『彼女』についてしゃべることはほとんど無かった
だからこそ、今この場で言われたことがあまりにもショックだった



「ちょ、どうしたのブン太」


いきなり固まったブン太に名前は首を傾げる
その意味を察したのは詐欺師と参謀だった


「のう、名前。『ブタ』は本気で罵るときだけでよくないかの?」

「うーん…それもそうだね」

「俺が『ちゃん』付け、というのも解せない話だ。だがそれは甘んじて受けよう。なので丸井も『ちゃん』付けの部分を残して欲しい」

「『ちゃん』か…うーむ…」

「そうじゃ、あれがいい」

「おお、雅治、何?」




「『ブーちゃん』」




仁王の提案に噴出したのは赤也だった


「あはははは!それって、ブタにつける名前で1,2を争う名前ッスよね!俺賛成です!ブー先輩!」

「ブーか。ブタよりひどい気がするが『罰』としての呼び名だから問題ないだろう」


柳も頷く


「蓮二、『ちゃん』が抜けてるよ、『ブーちゃん』!」

「ああ、そうだったな」


「なに納得してんだお前ら!」


少し落ち着いてきたブン太が声を上げる
しかし、


「ええい!うるさいぞ丸井!男がグチグチ言うな!たるんどる!」


真田の一喝でその場は丸くおさまった


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